ただ儚く君を想う 壱

第4章 試験

第9話

負けるだけならいいが、今は一応試験だ。
それで歳三の小姓だけにされるのは嫌だった。

せっかく幕末に来れたのだから、せめて、隊士を目指したい。


「ね、璃桜、俺としてくれるでしょ？」


キラキラスマイルのそうちゃんに、ううん、と一声唸る。

そうちゃんの技見たいよなぁ、でも負けたら歳三の小姓決定だよなぁ、それは嫌だしなぁ、なんて考えを巡らせていると。


「総司が言うと卑猥に聞こえねぇな」

「左之が言ったら何事も下ネタになるけどな」

「ちげぇねぇ」


下品な脳内高校生男子の左之さんと割と冷静に相槌を打つ新八さん。

そして、くつくつと笑った歳三が此方に目を向けていた。


「平助でいんじゃねぇか」

「おお、丁度いいな」

「え？　お、俺？！」


周りの人の賛成声に、御鉢の回ってきた平助が、目を白黒させて………というか、キラキラさせて答えた。


「えー、平助ぇ？」

「何だよ総司！　お前もあとでやりゃあいいじゃんか」


平ちゃんの方がまだましだろうか。

確かそうちゃんは免許皆伝に達しているはずだ。
平ちゃんは、北辰一刀流の目録を持っていたっけ。

比べてはいけないんだろうけれど、どうしても知識が蘇ってきてしまう。

自分の目の前で息をしている人の歴史を、図らずも知っている自分が、悪い意味で神様にでもなったような気がして嫌になった。


苦々しい気持ちで平ちゃんとそうちゃんを見比べていれば、早くも待ちきれなくなった様子の左之さんに急かされた。


「で、璃桜どうするんだ」

「俺とやろうぜ！」

「平助はやる気みてぇだが」

「えー、平助が手合せしたら絶対、璃桜に優しくなるじゃん」


左之さんって、こんなにせっかちだったんだ、なんて感想を持つ。

そして総司の呟きに、内心でつっ込んだ。

…………いやいやいや優しくしろよ、現代人（あ、未来人だった）ですよ、私。


「璃桜くん、それでいいだろう。平助も、いいな？」

「平助は竹刀でやるだろう？　防具は、どうする？」


がやがやしている周りの人の声にかぶせるように、いつの間にか来ていた近藤さんがゆったりと指示し、山南さんもそれに頷いて竹刀を二本手渡してきた。