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第4章 試験
第8話
しおりを挟む「終わったぞ」
手を当ててみれば、己の髪が綺麗に、後頭部の中央に一つに纏められていた。
そんな私の頭を見下ろして、上出来だと口角を上げた。
「あ、ありがとう」
「おう」
お礼を言えば、返事をしてからも、じーっと私を見続ける。
「……何」
「……いやぁ、おめぇほんっとに顔だけは綺麗だなぁと思ってよ」
褒められているのか。
……けなされている気しかしない。
「こっちの台詞なんだけど」
「ああ? 俺の何処が顔だけだってんだよ」
「そーゆーとこ」
「ああん?」
ぶつぶつと不毛な言い争いを続けていれば、ぱたぱたと足音が副長室に近づいてきて。
「土方さーん!」
「総司か、どうした」
襖が開いて、顔を覗かせたのは、そうちゃんだった。
「璃桜の腕前見るんですよね? もう、皆待ってますよ!」
その言葉に、ピシリと固まる。
もう? 今? 嘘でしょ?
拒否しようとして腕を伸ばすも、その腕をぐいと掴まれ拘束された。
「そうか、行くぞ璃桜」
「えええ、心の準備がぁ」
「なに言ってんの璃桜、大丈夫大丈夫! 楽しいから」
何その無責任な感じ。
鼻歌でも歌いだしそうな歳三の声と、総司の音符が付きそうな台詞に内心毒づきながら、ずるずると引きずられて、道場に連行された。
道場の戸をくぐって、漸く解放された腕を擦っていれば、ぽん、と竹刀と木刀が渡される。
「璃桜、どっち使うの?」
「えー、えと、」
実際のところ、どちらでも使えるようになっていた。
家でおじいちゃんに教わるときは、竹刀を使っていた。
けれど、木刀も、高校の剣道部に指南していたくらいだ。
「どっちでも……」
「じゃあ、手合せをする人に合わせよう」
るんるんと今にもスキップでもはじめそうな総司を見て、思う。
……どうしてそうちゃんは、そんなに楽しそうなの。
「えー? 璃桜と手合せできるからにきまってるじゃない」
「……は?」
何で考えてることがわかるの。
と、言うか。
いやいやいやいや、私と、沖田総司が手合せ?
「馬鹿なこと言わないでよ」
負けるに決まってるじゃない。
「何で? 璃桜と手合せするの楽しみじゃん」
飄々とそんなことをぬかす総司に、ぶんぶんと首を横に振った。
総司が他の人と手合せをする分には構わない。
だってあれほど目にしたいと願っていた技が、目の前にいる人から繰り出されるところが見れるのだから。
けれど、未来から来た私が、新撰組の沖田総司と手合せして、酷いことにならないわけがない。
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