ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第4章 試験

第7話

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「……何にやけてんだよ」

「べっつにぃ」

「気色わりぃ顔してねぇで、さっさと髪結えよ」


そうだった、ポニーテールにでもすればいいかな。
髪を手櫛で整えて、後頭部の中心くらいに一つに纏めた。

と、そこで、問題が発生した。


「あのぅ」

「ああ? どうしたんだよ」

「……非常に申し訳ないのですが、その、髪が……」

「モゴモゴ言ってねぇで、もっとはっきり言えよ」

「髪が結えません!!!!」


髪から手をはなし、半ば叫ぶように言えば、驚いたように目を見張る歳三。

恐らく内容よりも声に驚いたようで。
数秒後、眉を下げて聞き返してきた。


「……って、は? なんだって?」

「だからぁ、髪が結えないんだって」


恥ずかしいんだから、二度も言わせないで欲しい。
若干羞恥を覚えていれば、歳三の瞳がぐっと此方を見据えてきた。


「なんでだよ」

「だって、こんな紐みたいので纏めたことないもん」

「餓鬼でその上不器用ときたか」

「五月蝿い。仕方ないじゃないの、未来にはもっと便利なものがあるんだから」


むん、と膨れた私に、歳三は、ほんと餓鬼だなぁ、ったく、と言いながら、近づいてきて。


「っ、ちょ、なにす」

「髪結うんだろうが。黙って後ろ向けよ」


その言葉に、恥ずかしいけれど漆黒の双眸からくるりと背を向けた。

途端、大きな温もりが頭の上にのって。
ゆるり、と髪を梳かれた。


「おめぇの髪って、細いのな」

「そうかな、くせっけだから、湿気吸うとぼさぼさになるよ」

「ああ、総司のやつにそっくりだ」


そう言ってくつりと笑う歳三。

会話をしている最中も、その節ばった長い指が私の髪を梳く。
その奇妙な感覚に、鼓動が早くなる。


「…………真っ赤だぞ」

「……っ、うるさい」

「おめぇほんとに男知ってんのかよ」

「……余計なお世話」


その意味が分からないほどには餓鬼ではない。

羞恥に頬を染めている間にも、歳三の指が、微かに頭皮を撫でるように私の髪を一つに束ねてゆく。

きゅ、と紐が巻きつけられる感じがした瞬間、上から声が降ってきた。



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