ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第4章 試験

第6話

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「そうか」


気付いているのかいないのか、もう一度柔らかい息を零し、箸を動かす歳三。
如何して、何時もは意地悪なくせに、時々優しいことを言うの。

そんな彼が気になって、ご飯を食べきるのに何時もより時間がかかってしまったのは、また別の話。
ご飯を食べ終わって周りを見れば、ひとりを残して何故かもうみんないなかった。


「璃桜。来いよ」


残っていた一人――歳三にちょいちょい、と手招きされた。


「おめぇ、食べるの遅ぇのな、左之たちの倍はかかってんぜ」

「………あんなガサツな男どもと一緒にしないでくれる」


ぶつぶつ毒づきながら向かった先は私の部屋。
つまるところ歳三の部屋なんだが。


「ほらよ」

「わ、っと、」


部屋の襖を閉めた途端、先に入っていた歳三がぽん、と何かを投げて寄越した。

慌てて受け取れば、それは、


「………紐……?」


深紅の、髪結い紐だった。


「……やるよ」

「え?」

「おめぇ、髪結ぶものもってねぇだろ」

「え、ゴムならある…あ」


ゴムなんて、この時代には無いのか。
そんなものを使っていたら、事情を知らない人に怪しまれてしまうに違いない。


「今から手ごろな奴らと手合せさせっから、結んどけ」

「……は?」

「昨日の夜、試験するっつったろ」

「あー、そうだった」


………現実逃避していたかったのに。
試験なんてしたくない。


「そうちゃんの妹なのに、入っちゃダメなの、駄目だったら追い出されるの?」

「ああ? ちげぇよ、何言ってんだ馬鹿」


歳三の言葉に、はた、と思考が止まる。


「追い出すわけねぇだろ。ただの小姓か、それとも小姓兼隊士か、それを決めるための試験だ」


そうなんだ。
私、此処に入れるんだ。

その事実に、身体の力がゆるゆると抜けた。


「なんだぁ……」


ほっと溜息を零せば、ふっと低い笑い声がする。


「そんな心配してたのか」

「だって、試験って駄目だったら追い出すのかと思うじゃない」

「そんな鬼みたいなことすっかよ」


その一言が、ツボに入った。


「…………ふ」


もう少ししたら鬼の副長と呼ばれる貴方がそれ言ったらなんかもう。

……笑うしかない。



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感想 1

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