ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第3章 ひとびと

第16話

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「は?」

「明日も朝早いから寝るぞ」


いやいや、そうじゃなくって。


「何で私がしなくちゃならないのよ、布団くらい自分で敷きなさいよ」

「ああ?おめぇは俺の小姓だろうが。敷けよ。それともなんだ、俺と一緒の布団に寝る気かコラ」

「へ?」


気の抜けた声を出せば、溜息が返ってきた。


「おめぇの布団かりてこねぇと、此処にはねぇんだよ。初対面の人に布団化してくださいなんて自分で頼めんのか?」

「あ、そう言うこと」


即座に、頭の中で考える。

歳三の布団を敷くか。
初対面の人―おそらく八木さんだろう、に布団を貸して下せぇ、と頼むか。

両方嫌だけれど、どちらを選ぶかなんて、言わずもがな。


「……お願いします………」

「始めから素直に敷いとけ」


仕方なく頭下げてお願いした私を一瞥した歳三は、捨て台詞的なものを残して、私の布団を調達すべく、部屋を出て行った。

歳三がめんどくさがりながらも頼んでくれたおかげで、八木邸のご主人、源之丞さんに、なんとか客人用の布団を一組借りることができ。

行燈をけし、布団に入って暫く立った頃。


「………なぁ」


お互いに背を向けていたし、静かだったからすでに寝たと思っていた歳三から声が聞こえた。

勿論、私は人(♂)がいるという緊張で眠れていなかったけれど。


「……何?」

「お前、………好いてた男とかいなかったのか?」

「何、突然」

「ふと思ってな」


そう言うと、ぐるり此方に寝返りを打つ。

暗闇だったが、行燈を消してから時間がたっていたため、歳三のすっと通った鼻や、長い睫に縁どられた瞳を見て取れた。

その瞳が真剣みを帯びて、じっと此方を見つめていて。


「突然来たんだろう?この時代によ」

「え?何で……、」


私が未来から突然きたということを知っているのだろうか。


「……秘密だ」

「え、そこ秘密にする理由、あるの」

「………冗談だ、馬鹿」


口ではきついことを言いながらも、私の心を読み取ったように、ゆるり、と笑って片肘を立て、腕枕にした歳三は、答えを明かす。


「総司が来た時も突然だったんだって、本人から聞いたからな。平成だったか?その未来に、心に思い残すような奴がいねぇのかなと思っただけだ」

「………いなかった、けど、」

「けど?」

「…………昔、………何人かと付き合ってたことは、……あるよ」



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