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第3章 ひとびと
第10話
しおりを挟む「たぶん……生きていくくらいにはできると思います」
「それは、よかった。ときどきお手伝いをお願いするかもしれないが、よろしく頼むよ」
「はい!」
源さんのお願いに、私にもできることがあるんだ、と少しだけ嬉しく思う。
「これで一応、紹介は終わったな」
歳三の声に、皆がそちらに意識を集中した。
この声は、私の憧れの土方歳三に違わないものだと思う。
やっぱりこの低くて艶やかな声は、人を魅了するものがあると、割り切れない思いがありながらも認めてしまった。
「最後に、璃桜について言っておく。こいつは、女だ。総司の双子の妹、だ」
「……!?」
え、ばらしていいの。
総司の牽制は、何のためだったのよ。
ぱっと疑問を込めて歳三を見れば、ふん、と笑われる。
何なの。
「これはここだけの秘密にしてくれ。あちらさんにばれると若干めんどくせぇことになるからな。璃桜のドジで、ほかのやつらにばれそうになったとき、そばにいたら、どうにかばれないようにしてやってくれ」
ドジって。余計なお世話だ。
「………だがな、女だからってくれぐれも襲うんじゃねぇぞ。襲ったら総司の三段突きが待ってるからな」
しかも何、その付け足した内容は。
結局、総司任せじゃない。
………心の奥で、私がもし襲われても、歳三は何も思わないんだと、寂しいな、なんて一瞬でも思ってしまった私を殴ってしまいたい。
なんなのだろう、この歳三に関連する想いの強さは。
幕末に来たばかりで混乱しているのだろうか。
「…………やはり。道理で身体の線が柔らかい」
声がして、そちらをぼそりと向けば、呟いたのは、言うまでもなく斉藤さんだった。
と言うか、身体の線が柔らかい、ってなんなの。どこ見てるの。
じと目でしっかり睨んであげれば、ふっと笑われた。
………笑った。
その綺麗さに、睨んだ理由など忘れて、目が釘付けになる。
ああ、私、こんなイケメン集団の中で逆ハーなんて、心が持つのかしら。
なんて、馬鹿げたことを一瞬真剣に考えてため息を零した。
途端、歳三に馬鹿にしたように笑われた。
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