ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第3章 ひとびと

第6話

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と同時に、黙ってみていた(たぶん)斉藤さんが、ぽつり一言。


「……浪士組きっての剣士のお前でも、弱い物はあるんだな」


その言葉は、周りにいた人の心情をよく言い表したものだったようで。
平ちゃんが徐に総司に近づき、ぽん、とその肩を叩いた。

「総司! 俺もお前と一緒だぜ! 璃桜に弱いんだもんな!」

「誰が平助なんかと一緒だって? 璃桜は俺のだからね。平助なんかに近づかせないから」


途端、嫌そうに顔をゆがめる総司だったが、傍から見ていたら満更でもなさそうに笑うのが見えた。

やっぱり、そうちゃんと平ちゃんは仲良しなんだ。
わいわいと賑やかに過ぎていく時間。

その中に自分も入れたことをとても嬉しく思って、知らないうちに笑みが零れていた。
どうしてだろう、とても楽しい。


ずっと一人で過ごしてきたからだろうか、久しぶりの賑わいに、心が弾んでいるのが自分でもよくわかった。

ふと、大学の友達のことを考える。
一緒に映画を見に行ったり、ショッピングしたり、他愛無いことをする友達はいた。


けれど私を平成に引き留める人は、その中にはいなかった。
まだこの時代に来てから1日目だからかもしれないが、帰りたいとは、不思議と思わなかった。

どうしてだろう、この時代に、とても馴染んでいる気がする。
着せられている袴も、まだ汚染されていない凛と澄んだ空気感も、縁側の上に覗く輝く月さえもが、旧知のものだと己の感覚に訴えてくる。

まただ、頭と感覚の不一致。
心の中でぐっと何かが目覚める様な、そんな想いに駆られた。


「………りーおー」

「わっ!」


考えに没頭していたから、いきなりにゅっと顔が目の前に現われて驚く。


「はは、今の顔、おもしれぇ」

「平ちゃん」


名を呼んだのは、平助だった。

お決まりのように、隣に総司もいる。


「璃桜、行こうよ。もう食べ終わってるでしょ? 土方さんたち行っちゃったよ?」

「うん」


この後、何が待ち受けているのやら。

今出逢ったのは、試衛館派の人たちだけ。
水戸派の人たちにも、必然的に挨拶しなくてはならないだろう。

そう考えると、史実を思い出して、少しだけ不安に駆られる。


「璃桜!こいよ!」


平ちゃんとそうちゃんの伸ばしてくれた手を取った。

何があっても、きっと大丈夫。
二人の手のぬくもりを感じながらそう自分に言い聞かせて、二人の後を追った。



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