ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第3章 ひとびと

第5話

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「うぇ、璃桜…、まずい……」


若干涙目になる総司に、自分が悪人になった気がした。

止めていいよ、と言いそうになるのをぐっと耐えて総司を見ていれば、総司はちびちびと人参を齧り続け、一欠片きちんと食べた。


「りー、おー、もういい?」


涙目で訴えてくる総司の中に、子どものころの宗次郎の面影を目にして、笑い出しそうになる。
それを誤魔化すようによくできましたと、頭に手をのせた。


「もっとちゃんと食べなきゃ駄目だよ。これから最低限は食べさせるからね」

「はーい」


不承不承返事をした総司に、くすりと笑う。
真ん丸な瞳でこちらをみつめる総司は、子どものころと何も変わってない、と思った。


「何、璃桜、今馬鹿にしたでしょう」

「してない、してない」


総司に言い返しながら、ふと周りを見れば、何故だか皆が箸を止めてこちらを凝視していた。


「総司が、食べた」


歳三がぽろりと零したのを皮切りにして、ぶつぶつと呟き声がさざ波のように広がる。


「……夢だ。幻だ」

「明日は雪が降るかもしれねぇ」

「雷が落ちるかもしれない」


周りのその様子に、


「なにぶつぶつ言ってるんですか」


総司が問えば、歳三がごほん、と咳ばらいをした。


「お前が野菜を嫌がらず食べるなんて、この目で見る日が来るとは思わなかった」

「え?そうでしたっけ?」

「ああ、昔っからお前は嫌いなものは俺の器に盛りやがってよ、全く食わなかったじゃねぇか」


そんなに前から、ずっと野菜を食べていなかったなんて。


「………総司。明日からのっている野菜は全部必ず食べること」

「ええー?! やだやだやだ、そんなの拷問だよ!」

「何、馬鹿なこと言ってるの。身体壊すよ。壊したら誰が1番隊を率いるの」

「ううー……、」


何にも言い返せなくなった総司は、やがて諦めたようにこくん、と頷いた。



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