ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第2章 桜の導き

第17話

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「おう、見えてるぜ、総司にそっくりな、男の子の恰好してる嬢ちゃんがな」


……駄目だ、ばれてる。
私、やっぱりオオカミに襲われてしまうのだろうか。


「女だろう、お嬢ちゃん?」

「え、えと…、」

「あーあ、やっぱり駄目か。左之さんは絶対わかっちゃうと思いましたよー、でもこんなに早くばれちゃうとはなー」


総司が、ぎゅ、と守るように私の肩を抱いた。
その温度に、少しだけ顔を覗かせていた恐怖が去り、安心する。


「当たり前さ、俺が女だってわからないはずねぇだろう? なんたって、据え膳くわぬは男の恥、射止めた女は数知れずの、この原田左之助様だぜ!」


……せっかく、心狂わす女の人がたくさん居そうなイケメンなのに。

中身は、すこし、というかかなり……残念らしい。


総司も同じことを思ったのか、さらりと璃桜に伸びていた原田の暑苦しい手をかわし、璃桜を守った。


「さぁて、それじゃあ、紹介します。俺の双子の妹、沖田璃桜です。これからは土方さんの小姓です」

「え、えと、そうちゃんがいつもお世話になってます……?」


こういう時、なんて言えばいいのだろうか。
困って常套句に走れば、総司から剣呑な視線を送られた。


「待ってよ、璃桜。それだと俺がお世話されてるみたいだよ。逆だって。俺がお世話してるんだから」

「……そうちゃん、社交辞令も知らないほど、馬鹿になったの?」

「璃桜こそ、なんでそんなこと言うの。そもそも、璃桜が男らしくしないからこの3馬鹿に女だってばれちゃったじゃん」

「え、それは原田さんが、女の人に慣れすぎてるから…!」


9歳の時から変わらず、総司と些細なことで言い合いになる。
いつも結局、二人とも沈黙して、知らないうちに仲直りしていた。

けれどここには、二人だけでなく、あの3人もいて。


「総司が、そうちゃん………?」

「泣く子も黙るあの稽古をする、一番隊隊長、沖田総司が、そうちゃんって呼ばれて、そっくりな顔の女と言い合いしてるぞ………」

「やばい、俺、耐えらんねぇ、……………ぶははははは!!!!」


原田さんの大きな笑い声が、響いた。
その笑い声に、総司と共にはっと我に返る。


「はー、馬鹿みたい。ごめん、璃桜」

「うん、私も」


仲直りしてみれば、久々なのに、何だかいつもしていたように言い合えたことが、少しだけ嬉しい。


様子を見ていた永倉さんが、みんなに声をかけた。


「はいはい、喧嘩は終わったか?そしたら早く飯行くぞ。早くしねぇと、土方さんがキレるぞ」


やっぱり永倉さんに感じた第一印象は間違ってなかったらしい。


「はーい。璃桜、行くよ」


総司に手を引かれ、立ち上がる。
気が付けば、かなり空腹を感じていた。



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