ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第2章 桜の導き

第10話

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「きゃ、」


襖がものすごい音を立てて、開いた。
驚いて目を向ければ、そこにいたのは、苦笑する宗次郎と。


「…………………璃、桜?」


泣きそうに掠れた、低い声で私を呼ぶ、背の高い人。


「え、そうちゃん、この人、……」


誰?
そう聞こうとした刹那。


強い力で、抱きしめられた。



「璃桜…………、逢いたかった…………………っ!」



え、何、この状況。なんで、抱きしめられているの。



そう思う頭とは裏腹に。

心は何故か、この人を、この温もりを、知っていると確信していた。
何なの。この時代に来てから、感覚が頭と心でかみ合わない。



「…………あ、あの……、」

「土方さん、璃桜困ってますから。離してあげてくださいよ」


宗次郎から声を掛けられ、はっと体を離したその人。


「………すまねぇ」


そう言った顔を見上げれば、どくりと鼓動が鳴った。


切れ長の、色気を孕んだ瞳。
端正な顔は、すべてのパーツがきれいに収まっていて。
艶やかな黒髪は、後ろで一つに束ねている。

着物の合わせから覗く、筋肉質の胸板。
醸し出す、男の香りに、くらりとした。


「この簪……、本当に璃桜なんだな」

「え?」


簪?
どうしてこの人がこの簪を知っているのだろうか。


「璃桜、俺のこと、覚えてねぇのか」

「あ、えと、……ごめんなさい」


何だかとても申し訳なくなって謝ると、宗次郎が耐え切れないように笑いだす。


「あははははは!土方さん、覚えられてないー。ぷくく」

「おい、総司。うっせぇよ」

「だって、ねぇ?この土方歳三を忘れるなんて、璃桜もやるなー」


土方、歳三。
新撰組、鬼の副長の異名をもつ、その人。


その名に、目を見開く。


「あなた、土方、歳三………?」

「ああ、そうだが」


そう聞いて、初めに思ったことに、なんとも情けなさを感じる。
史実通り、ものすごいイケメンだ。
なんて、思ってしまったんだもの。


「ねぇ、土方さん?璃桜、行くところないんですけど、ここにいさせてくれますよね?」


にこにこと笑いながら尋ねる宗次郎。


「でもな、おい、ここはもうお遊びできる場所じゃねんだ」

「そうでしたねー、壬生浪士組ですもんねー」


あ、名前もう貰ったんだ。おそらく、小言の最中に聞いたのだろう。

襖から覗く太陽の位置から察するに、そろそろ夕方だもんね。


「だから、な、女を置いておくわけには、」

「璃桜は、俺の、妹なんだけどな」

「う、でも、」

「璃桜は、土方さんの、はつ、」

「うわぁぁぁぁ!黙れ総司!!」



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