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第2章 桜の導き
第9話
しおりを挟む宗次郎が部屋の1つに飛び込み、その辺にあった棒切れで部屋の戸を開かなくした。
「ふー、璃桜もう平気だよ」
「あの人、いいの…?」
今だ続く、外からの怒号に、首が縮こまる。
宗次郎は慣れているようで、何のこともなくにこりと笑った。
「いいって大丈夫。それよりも、この恰好見られる方がまずいから。はい、着替えて」
そう言って差し出されたのは、宗次郎が着ているものと同じような着物と、袴。
「僕のだから、少し大きい、かな?」
そう言ってじっと見つめられた。
着替えを手にしたまま、宗次郎が出ていくのを待つ。
数秒。
……………いや、待って、貴方は何を待っているの。
「ん? 着替えないの」
「いや、だって、そこにいられたら着替えられないじゃない」
恥ずかしくて俯き加減でいえば、ふはっと噴出される。
「今更。お風呂も一緒に入ってたのに」
「だだだだって、今はもう、……その、」
もごもごと反論すれば、優しく頭を撫でられた。
「わかったよ、外にいるから。終わったら、呼んで」
「うん」
宗次郎は、慎重に戸の押さえを外し、目にもとまらぬ速さで襖を開け閉めして、外に出て行った。
外には、あの怒号の主がいたようで、がみがみとお小言を受けている。
「ごめん、そうちゃん」
出来るだけ早く着替えよう。
袴に着替えながら思う。
私、歴史習っていてよかった。
資料館とかで、コスプレしていたおかげで、袴も着れるもの。
ちゃっちゃと着替えて、宗次郎を呼ぼうと口を開けた。
その時、目に映ったのは平成からついてきた、無地のベージュカラーのリュック。
中身、無事かな……。
一応確認しておこうと、ファスナーを開ける。
iPhone、化粧品、髪ゴム、鏡、お財布、タオル、ティッシュ。
出かけたときに準備した中身に、一つだけ違うものが混じっている。
「…………簪…?」
この簪は、死んだ母親の手に握られていたもの。
それ以来、形見として部屋で大事にしまっておいたものなのに、入れてもいないのに、どうして、一緒に幕末に来ているのだろう。
簪を手にしたまま、考え込んでいると。
――――――スパーン!
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