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第2章 桜の導き
第8話
しおりを挟む反対側の手を引き、歩き出す宗次郎を、小走りに追いかける。
「そうちゃん、前は私が寒いときいつもパーカーとか貸してくれてたよね」
「あー、そうだったね、だって璃桜、いつも薄着なんだもん。大事な妹が風邪ひくのは嫌だし」
……そうちゃんの上着が着たくて、薄着でいたのは黙っておこう。
それよりも、するり、と落とされた言葉に照れる。
「……そうちゃんの、天然たらし」
「えー? なんもしてないじゃん」
ぶつぶつと言い合っていたら、宗次郎がいきなり立ち止まる。
「っぷ、………そうちゃん!」
いきなり立ち止まるから、宗次郎の首に鼻をぶつけてしまった。
丁度、身長も私の方が少し小さいくらいだから、そこに当たるのだ。
……これ以上鼻が低くなったらどうしてくれるの。
憤りも込めて名を呼べば、
「しー」
悪戯っ子のように、唇に指を当て、笑う貴方。
その表情さえも、久しぶりで。
本当に、宗次郎に逢えたんだと、実感した。
「そうちゃ、」
「…………裏口から入るよ?」
え、何で。
顔に疑問が出たのだろうか、妖艶に弧を描く唇は、さらににやりと曲がる。
「……………僕が女の子を連れているから」
「え?!」
いや、当たり前か。
新撰組は、女人禁制だった。
しかも、隊長でもないのに、こんな格好してる子を連れ込んだなんてばれたら、大変そう。
「しーっ!そっと、ね」
手をつなぎ、ゆっくり裏口を開く。
前川邸。新撰組屯所のうちの、一つだ。
今までも家から近かったから、何回か足を運んだことがある。
公開はされていなかったため、入るのはこれが初めて。
若干の緊張が体を走り、ごくりと喉が鳴る。
「璃桜、行くよ。……あ、まずい、早く!」
「え、な、まって! ……きゃ?!」
扉を開くやいなや、突然抱えあげられる。
猛然と走り出す宗次郎から振り落とされないように必死でしがみついた。
ひょい、とその肩から後ろを向けば、
「こらぁぁぁぁぁぁぁ!!! てめぇ、女連れ込んでんじゃねぇぞ!!!!!」
正しく、鬼のようにものすごい怒号をあげながら、誰かが私たちを追ってきた。
「あー、よりにもよってあの人、なんで裏口にいるかなぁ、璃桜、見ちゃダメ。隠れてて」
こそり、耳元でささやかれる言葉に、ぱっと顔を宗次郎の肩に伏せた。
ばたばたばたばたばたばた。
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