ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第2章 桜の導き

第3話

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「あれ? そうちゃん、何、この服…………」


ふと、見上げた宗次郎の服は、何故だか濃紺の着物に、灰色の袴姿。
どうしてだか、腰に刀がついている。


しかも、二本差。
完璧な武士の模倣に、奇妙な感覚が増していく。


「そうちゃん、銃刀法違反だよ? コスプレ?」


そう聞きながらも、嫌な予想が頭を占めていく。
もしかしてと、周りを歩く人々を見れば、みんな和装だった。


「………どうして…?」


「……ああ、やっぱり。璃桜、分ってないよな」


少しだけ眉を落として、すまなそうに笑う貴方の言った言葉が、理解できなかった。

だって。





「………………今は、文久3年3月12日。ここは、昔の、京だ」





そんな、馬鹿げたこと、あるはずないんだから。



「そうちゃん、どうしてそんな、嘘つくの」

「嘘じゃ、ないんだ。信じられなくても、本当にここは、文久3年の京なんだよ」

「う、嘘、」



そう思う心の傍らでは、周りの状況を分析して、それが真実だと告げる冷静な自分もいて。





どれくらい、黙ったまま時間が経過しただろうか。


「…………っ、」

認めざるを、得なかった。
私は、時を超えて、幕末のもっとも動乱が激しい京に、きてしまったということを。


「………なんで、」


そうちゃんと、やっと逢えたのに。
やっと、幸せが自分にも回ってきたって、そう思ったのに。


―――――――――訳が分からない世界に、放り出されるの。


言いかけた言葉は、口を出ず、地面に吸い込まれた。


「………そうちゃん、」


宗次郎が、ふわり私を抱きしめたから。


「璃桜、大丈夫。不安も悲しみも、一緒に抱えるよ。今度こそ僕が、守って見せるから」



だから、笑ってよ。
そう言って、貴方は私の額を自分のにこつんと、くっつけた。

その暖かさに、じわり、と涙が滲む。

そうだよ、そうちゃんに逢えたじゃない。
神様は、少なくとも私の願いをしっかり叶えてくれた。


だったら、この再会を喜ぼう。
考えるのは、放棄して。
今はただ、歓喜の気持ちだけに染まりたい。


そう、強く思ったから。



「そうちゃん、」

「ん?」


名を呼べば、空気一枚挟んだ距離で、何も変わらない薄茶の澄んだ瞳と見つめあう。



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