ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第2章 桜の導き

第2話

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「…………んん…」


私の名を呼ぶのは、誰?


その問いを最後に、ひらひらと桜の舞う、長い夢から覚醒した。
ゆるゆると戻ってくる己の五感が、春の陽気にあふれる太陽を感じさせる。


眩しい。
ちらちらと瞼の奥に舞う光の粒に意識を刺激されて、導かれるように目を開いた。


「…………っ」


刹那。
そこに見えたのは。






「………………………………り、お………?」






ぼろぼろと涙を零しながら、私を呼ぶ、貴方だった。





「………………………………そ、うちゃん………?」





嘘。
そんなわけないじゃない。

だって、彼はもう10年以上行方不明で。




「う、うそ……、そうちゃんが、ここにいるはずない……」

「……っ!! 璃桜……本物だよね?!」




そう、私を揺さぶる貴方は。

小学生特有の柔らかさは見る影もなく、精悍な男の人になっていた。

けれど、最後に見た時から変わらない、茶色がかった、ふわふわの髪。
長くて、綺麗な睫毛。
良く笑いよく話す、薄い唇。
直ぐに朱に染まる、艶やかな頬。

そして、私の頬に当てている掌の暖かさ。

何も、変わっていなくて。



「……………そうちゃん!!!!!」



目の前で涙を零しているのが、宗次郎だと確信した。

名を呼べば、その刹那、耐えきれなくなって、涙腺が決壊した。
信じられなくて、宗次郎が目の前にいることを確かめるかのように、目一杯力を込めてその胸板に縋り付く。

着ている物から香る匂いも、寸分違わず、宗次郎のものだった。


「そうちゃ、……そうちゃん……」


名前を、呼ぶ。

何度も何度も繰り返し。
そうでもしていないと、私の前からふっと消えてしまいそうだったから。






「……………璃桜、ちょっと、訊いてもいい?」


宗次郎が優しく背を撫でてくれていたからか、漸く涙が止まり、少しずつ落ち着いてきた。
しゃがみ込んだ私に合わせるように、そっと宗次郎もしゃがんでくれた。

それに伴って、今までは宗次郎の服しか映っていなかった瞳に、周りの景色が映る。


「…………ここ、どこだかわかる?」

「え? 京都の、壬生寺の前でしょう?」

「うん、そうなんだけど……」


歯切れの悪い彼に疑問を覚え、そっとあたりを見回してみた。


あれ……?
妙な違和感が、感覚を支配する。


まず、桜が、咲いていて。
そう言えば、さっきから、何故だかぽかぽかと暖かい陽気が璃桜を包んでいる。


何かが、可笑しい。
季節だけが、私を置いて行ってしまったような。


しいて言えば、時差ぼけのようなそんな感覚。



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