ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第1章 ひとりぼっち

第1話

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真っ暗な闇が支配する真夜中。
ある道場に、ひとり。


「……………っ、はぁ……」


ぶん、ぶん、と何かが風を切る音に混じって、息切れの音が辺りに響く。


「今日は、このくらいにしよう……」


呟きを落とし、溜息を零した私は、今まで振っていた竹刀を片付け始める。


「はは……、この杉野璃桜(スギノリオ)でも、眠れない夜があるなんて」



自嘲するよう、乾いた笑いが口から洩れる。

片付け終わって道場の扉を開けば、優しく満月の光が私を照らす。
その淡い光さえ、私には眩しい。

目を細めてじっと光を見つめれば、無意識のうちに涙が頬を伝った。


………やっぱり、何年たっても、忘れることなんて出来ない。



「………そう、ちゃん」


ぽつりと彼の名を唇にのせれば、決壊する涙腺に伴って当時の出来事をまざまざと思い出した。


そう、あれはもう、10年以上前のこと。
まだ両親もいて、楽しい小学校生活を送っていた。


…………………それに。
………私の隣には、いつもいつも双子の兄、宗次郎が笑っていた。


小学校の入学準備の時、ランドセルを買いに出かけた。


宗次郎は黒のランドセル。
璃桜は赤のランドセル。


「何で、そうちゃんとりおの色がちがうの?」


2人で違う色のものを持つのはそれが初めてで、どうして黒ではいけないのかと母を困らせたのは、ずっと忘れられない思い出だ。


「色がちがくたって、りおのこと嫌いになんてならないからね」

「うん! りおもそうちゃんだいすき!」


家族みんなで楽しく幸せに暮らしていくんだ、そう思っていた。
ずっとずっと、そばにいてくれると、そう思っていた。


なのに。



「…………事故が、起きちゃったんだよねぇ…」




そう、丁度今日の日付。
3月、11日。




日本列島が、軋み、唸り、歪んだその日。
あの日、璃桜は近所の女の子の家に遊びに行っていた。



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