【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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二人を結ぶ呪い

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そんな偽物のディオンを見届けた帰り道――


「まだいけるか?」
「う……うん」
正直3回も連続で瞬間移動したせいで、結構な疲労感だ。

瞬間移動は魔法を発動する人だけでなく、一緒に移動した相手の魔力もある程度減るようだ。
だから、始めて学園に連れて来られた時もバケツを用意されたんだろう。

「次飛んだら1回休んどくか」
ディオンがそう呟き、私の顔色を気にしながら瞬間移動を使った。


次の瞬間――
私は目の前の、辺り一面がピンク色の景色に息を呑んだ。

「うわぁぁ……す、凄いっ!!」

桜の木々が山をおおい尽くし、桜の花びらが柔らかなカーペットのように地面を染めている。

空までも桜色に染まり、風に乗ってヒラヒラと舞い降りていく。
木々の間から淡い光がこぼれ落ちる、まるで夢の中にいるような幻想的な風景に、心が震えた。


「き……綺麗……」
思わずため息まで出てしまうほどの絶景に見惚れていると、「突っ立ってねぇで、さっさと休め」と言われて、現実に引き戻された。


「おい、椅子でいいか?」
「え?」
そっか、休みに来たんだもんね。

「こんなに綺麗な景色なんだから、せっかくなんだし椅子じゃなくて……」
そう言いながら、私は地面に手をかざして、2人が横になれるくらいのレジャーシートを出した。

「なんだ、これは?」
「え?レジャーシートだけど……」
「レジャー……?なんだそれ」

あれ?この世界にはないの?って、何その顔!
ポカンとしたディオンの顔が少し面白い。

「見た事ねぇな。これは何に使うものなんだ?」
「これは……」
靴を脱ぎ、レジャーシートの上に座りながら説明する。

「こうやって使うの」
「ふぅん……?そんなの使わなくても、服を汚したくねぇのなら座るか浮いておけばいいだろ?」
そう言って宙に浮くディオン。

「それだったらちゃんと休めないでしょ!ほら、ディオンも座って」
私は、自分の横の隣をポンと叩く。

ディオンは少し眉を上げなから私の横に座った。


「ここの景色、本当に綺麗だね」
「お前、こういうの好きだよな」

ディオンと並んで桜を眺めていると、ふと、さっき見た平行世界へ消えて行ったもう1人のディオンを思い出した。


「……そういえばディオン」
「ん?」

「前から気になってたんだけど、どうしてあの赤い石を使って平行世界を超えるって知ってたの?」
「突然どうした?」

「だって、私を助けに来てくれた瞬間には壊してたじゃない?」
「あー……」
ディオンは後頭部に手を回しながら答えた。
「別に知ってたわけじゃない」

「え?」
「見た瞬間、移動系の魔法陣に使う物っぽい気がして、念のため壊しただけだ。あいつ、元々ちょこまかと逃げる奴だったしな」

「そうなんだ……」
さすが……
ディオンは手をかざさなくても分かるんだ。


「まぁ、でもまさか、あれが平行世界を超えるような大層たいそうな装置だとは思わなかったけどな」
マジでそんな事出来るんだな、と続けた。


ディオンの言葉を聞きながら、私はさっき見た平行世界の空間が開かれた瞬間を思い出し、全身に鳥肌が立った。

あの瞬間、膨大な魔力が一気に解き放たれて、空間が捻じ曲がるようだった。
アレは、ただの人間が踏み込んではいけない領域のように感じた。
まるで……神の領域に触れたかのような、言葉にできない感覚だった。


「私も思った……」
「私もぉ、じゃねぇよ!」
突然デコピンをされてひたいに痛みが走る。

「痛っ!」
「連れて行かれそうになってんじゃねぇよ!」
怒鳴られて、痛むひたいを抑えながら目を丸くした。

「俺があと一歩でも遅かったら、お前はこの世から居なくなってたんだぞ!警戒心を持てってあれだけ言っただろうが!」
ディオンの厳しい言葉に、私はしんみりとうつむいた。

「だって……ディオンと、同じ姿だったから……」

ディオンは私の様子に、片方の口をグッと噛みしめた。

「本物じゃない事くらい見抜けよ!」
「そんなの……無理だよ!確かに所々は違ったけど……」
「無理じゃねぇ。やれ!」
「ディオン……言ってる事めちゃくちゃだよ……」
と話していると、
「はぁー……マジで、二度と……んな気持ちにさ……んな……」
と、ディオンは前髪を掴んで苦し気に顔をゆがめた。
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