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最後のピース
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しおりを挟むその時――
「マジで殺す」
そんな怒りの声に、瞬時に目を大きく見開いた。
次の瞬間、目の前のディオンが、まるで見えない力で相撲の平手打ちを食らったかのように、ドンドンと部屋の奥に押しやられていく。
そんな理解不能な様子に驚いていると、
「何やってたんだよ」
と、不機嫌極まりない声が頭上から聞こえた。
見上げると、もう一人のディオンが恐ろしい顔で見下ろしていた。
「……あれ?どうして……」
下の階で待ってくれていたはずじゃ……
「どうして?じゃねぇよ!看守がヤバそうだって呼びに来たんだ。で、来てみたらこれだ。もうあいつを殺していいよな?」
「えっ……殺す!?何言ってるの!?止めてよ!」
私は即座にディオンの足にしがみついて引き止める。
「お前……マジでそればっかだな。何度俺を引き止めたら気が済むんだよ!」
「それは私の台詞よ!」
何度引き止めさせるのよ。
「もう話は済んだだろ」
「う……うん。だいたい終わったけど……」
「けど?」
どうして私を殺したのか、理由を聞けば、ちゃんと憎めるんだと思っていた。
なのに……
「本来、上層階に入れられるはずだったこいつを、お前の頼みで、なんとか下層行きにしてやったんだ。
その事だけでも納得行かねぇのに、お前が学園に事情聴取に来た奴に『あの人は平行世界の行き来が出来る人物だ』なんて余計な事を言ったせいで、こいつは世界初の平行世界を行き来出来る重要参考人となってしまった。そのせいで皆、こいつには手荒な真似が出来なくなった」
そう話すディオンは、とても不満そうな顔をしていた。
「まさか、ここまでがお前の企み通りじゃないだろうな」
「えっ……」
確かに、偽物のディオンを守るためにあえて言った。
平行世界を渡る発明者だと分かれば、国も世界も、偽物のディオンに対する扱いが大きく変わるだろうと考えたからだ。
まさか、ここまで上手くいくとは思っていなかったけど……
ちなみに、平行世界へ行く魔法陣の作り方は未だに口を割らないままらしいけど、あの地下室にあるものから解明されるのは時間の問題らしい。
「どっちにしても、この人が平行世界から来たって言わないと、ディオンが捕まっている事になっちゃうじゃない」
そんな事は考えていなかったのか、ディオンは私の言葉を聞くと舌打ちをした。
「前から気になってたんだけど、お前は今、こいつが憎いのか?」
ディオンより一回りほど年を重ねて見える偽物のディオンを見て、この気持ちは揺るぎないものだと確信した。
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