【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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時を超えた狂愛の檻

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この魔法陣を使って、私を別の世界に移動させる事だったんだろう。


壊れた宝石のおかげで、今はあまり何も感じないけど、初めてこの魔法陣を見た時は、肌に刺さりそうなほどのとてつもない魔力を感じたのを覚えている。

この魔法陣が、平行世界に行く入口となるだなんて……

私は信じられない気持ちで自分の足元にある魔法陣に手を添え、まだ砕けていない赤い宝石に触れた。

すると、驚く程に蓄積ちくせきされた魔力を感じた。

これを作るのに、どれだけの年月をついやしたんだろう。
どうして、ここまでして私にこだわっているんだろう。

1からやり直せる……というディオンの言葉の意味は、聞かないと分からない。


でも、これだけは分かる。
前世の私を殺した理由は、きっと、私を転生させるためだったんだろうって。


なんの理由で?
元の世界の私と何かあった?

どうして、そこまでして……
目の前にいるのに、聞くことができない。

だって、聞いてしまったら、こんなにも一瞬で小さくなってしまった復讐心でさえも、消えてしまいそうだから。


私が探し続けていた犯人は、私が想像していた犯人像とは全く違った。

もっと、悪人のごとくお金や欲にまみれて、何食わぬ顔でのうのうと生きているんだと思っていたのに……

実際は、『シエル』という存在を時空を超えてしまうほどに欲しいて、いつも悲し気で、どこか不安そうで……余裕なんてない心配性な人物だった……


だからって、私を殺した事も、ラブを消した事も、絶対に許せる事じゃない!!

許しちゃいけない!!


そう思っているのに――


私は、この人を……

憎みきれない。


「記憶整理に、まだ時間がかかりそうだな」
短い髪のディオンがそう呟くと、私の頭にポンと手を乗せて立ち上がった。
そしてツカツカと靴音を立てて偽物のディオンに近づいて行く。


何をするんだろう、と見ていると、髪の短いディオンは偽物のディオンのあごを、長い足で一気に蹴り上げた。

「っ!!」
そして上げたその足で、かかと落としをした。

一瞬で床にひれ伏すように倒れこんだ偽物のディオンを、本物のディオンは容赦なく腹部を蹴り始める。
「うっ……」

その瞬間、思わず自分の口から「や、やめて……」という言葉が出てしまう。
そんな自分に、驚いて口を両手で塞いだ。

自分を殺した人物なのに、何をかばっているんだろう。


私が止めたせいか、すぐに動きを止めたディオンは、ゆっくりとこちらを向く。
そして不機嫌極まりない目のまま、再び偽物のディオンに視線を戻した。

すると、靴先で、口から血が流れる偽物のディオンのあごを持ち上げて聞く。
「おい」

眉間にしわを寄せる偽物のディオンは、本物のディオンを見上げる。

「お前、シエルに手ぇ出してねぇだろうな?」
ひどい殺意を巻き上げながら、偽物のディオンに問いかけた。

すると、偽物のディオンは、静かに片方の口角を上げた。


「さぁ……どうだろうな……」
挑発するように言った偽物のディオンの言葉に、本物のディオンはバッと手をかざした。

次の瞬間、「うっ……」と、偽物のディオンが首を押さえて苦しそうにもがきはじめた。

慌てて立ち上がり、ディオンの手を掴んで止めさせようとする。
「や……やめてっ!」
復讐する相手なのに、自分でも何をやってるのか訳が分からない。

「離せ!」
気付けば、偽物のディオンはヒュー、ヒューと細い息をしていて、瞳孔どうこうが開いていた。

「し、死んじゃうから!お願い!!ディオン!!」
「お前はいつもいつも甘いんだよ!!お前をさらい監禁してた奴なんて、だろ!!」
凄い剣幕で怒鳴られ、ハッとした。

私……、ずっと復讐したかった相手が死にかけているというのに、さっきから何をしているのだろうか。

でも、ディオンに殺人を犯させるわけにはいかない。
いや、そんな話じゃない気がする!

考えがまとまらない私は、その場で頭を抱えた。


「俺が……俺がどれだけ……」
ディオンの苦し気な瞳が私に向いて、次は胸が苦しくなった。

「ディオン……」

すると――目の前のディオンのこめかみに何かが飛んで来て、一瞬で血が飛び散った。
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