【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
361 / 395
時を超えた狂愛の檻

17

しおりを挟む

この魔法陣を使って、私を別の世界に移動させる事だったんだろう。


壊れた宝石のおかげで、今はあまり何も感じないけど、初めてこの魔法陣を見た時は、肌に刺さりそうなほどのとてつもない魔力を感じたのを覚えている。

この魔法陣が、平行世界に行く入口となるだなんて……

私は信じられない気持ちで自分の足元にある魔法陣に手を添え、まだ砕けていない赤い宝石に触れた。

すると、驚く程に蓄積ちくせきされた魔力を感じた。

これを作るのに、どれだけの年月をついやしたんだろう。
どうして、ここまでして私にこだわっているんだろう。

1からやり直せる……というディオンの言葉の意味は、聞かないと分からない。


でも、これだけは分かる。
前世の私を殺した理由は、きっと、私を転生させるためだったんだろうって。


なんの理由で?
元の世界の私と何かあった?

どうして、そこまでして……
目の前にいるのに、聞くことができない。

だって、聞いてしまったら、こんなにも一瞬で小さくなってしまった復讐心でさえも、消えてしまいそうだから。


私が探し続けていた犯人は、私が想像していた犯人像とは全く違った。

もっと、悪人のごとくお金や欲にまみれて、何食わぬ顔でのうのうと生きているんだと思っていたのに……

実際は、『シエル』という存在を時空を超えてしまうほどに欲しいて、いつも悲し気で、どこか不安そうで……余裕なんてない心配性な人物だった……


だからって、私を殺した事も、ラブを消した事も、絶対に許せる事じゃない!!

許しちゃいけない!!


そう思っているのに――


私は、この人を……

憎みきれない。


「記憶整理に、まだ時間がかかりそうだな」
短い髪のディオンがそう呟くと、私の頭にポンと手を乗せて立ち上がった。
そしてツカツカと靴音を立てて偽物のディオンに近づいて行く。


何をするんだろう、と見ていると、髪の短いディオンは偽物のディオンのあごを、長い足で一気に蹴り上げた。

「っ!!」
そして上げたその足で、かかと落としをした。

一瞬で床にひれ伏すように倒れこんだ偽物のディオンを、本物のディオンは容赦なく腹部を蹴り始める。
「うっ……」

その瞬間、思わず自分の口から「や、やめて……」という言葉が出てしまう。
そんな自分に、驚いて口を両手で塞いだ。

自分を殺した人物なのに、何をかばっているんだろう。


私が止めたせいか、すぐに動きを止めたディオンは、ゆっくりとこちらを向く。
そして不機嫌極まりない目のまま、再び偽物のディオンに視線を戻した。

すると、靴先で、口から血が流れる偽物のディオンのあごを持ち上げて聞く。
「おい」

眉間にしわを寄せる偽物のディオンは、本物のディオンを見上げる。

「お前、シエルに手ぇ出してねぇだろうな?」
ひどい殺意を巻き上げながら、偽物のディオンに問いかけた。

すると、偽物のディオンは、静かに片方の口角を上げた。


「さぁ……どうだろうな……」
挑発するように言った偽物のディオンの言葉に、本物のディオンはバッと手をかざした。

次の瞬間、「うっ……」と、偽物のディオンが首を押さえて苦しそうにもがきはじめた。

慌てて立ち上がり、ディオンの手を掴んで止めさせようとする。
「や……やめてっ!」
復讐する相手なのに、自分でも何をやってるのか訳が分からない。

「離せ!」
気付けば、偽物のディオンはヒュー、ヒューと細い息をしていて、瞳孔どうこうが開いていた。

「し、死んじゃうから!お願い!!ディオン!!」
「お前はいつもいつも甘いんだよ!!お前をさらい監禁してた奴なんて、だろ!!」
凄い剣幕で怒鳴られ、ハッとした。

私……、ずっと復讐したかった相手が死にかけているというのに、さっきから何をしているのだろうか。

でも、ディオンに殺人を犯させるわけにはいかない。
いや、そんな話じゃない気がする!

考えがまとまらない私は、その場で頭を抱えた。


「俺が……俺がどれだけ……」
ディオンの苦し気な瞳が私に向いて、次は胸が苦しくなった。

「ディオン……」

すると――目の前のディオンのこめかみに何かが飛んで来て、一瞬で血が飛び散った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...