【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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時を超えた狂愛の檻

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…………

……

目を覚ますと、自分の手が天井に向かって伸びていた。

まだ夢の余韻よいんに浸っていた俺は、その手をグッと握りしめ、「シエル……」と呟く。


すると、すぐにある不安が湧き上がった。
急いで起き上がり、それを確かめるためにシエルの部屋へと急いだ。


ノックをしても返事はない。
嫌な予感に、すぐにドアを開けると、誰もいないシエルの部屋が目に飛び込んで来て、焦りがつのった。

「なんで居ないんだ!」


直後――

「どうしたの?そんな慌てて」
背後から声が聞こえて、勢いよく振り返ると、キョトンとした顔で召喚獣を抱いたシエルが廊下に立っていた。



「シエル……」
ホッとした俺は、シエルに強く抱きしめた。

「えっ!?何!?どうしたの?」
慌てた様子のシエルをゆっくりと引き離した俺は、シエルの目を見つめる。

「シエルは、魔法が使えるか?」
突然の質問に、「えっ?」と目を大きくしたシエルは「何よ急に」と困ったように笑った。

「何を言い出すのかと思ったら……。そんなの使えるわけないじゃない」


俺はその言葉を聞いた瞬間、深くに肩をなでおろした。

そして、シエルの耳についているピアスに目を向けて思った。

やっぱり、このピアスの効果は本物だ。
だから治癒魔法も効いていないんだと――


このピアスを付けさせたあの日。

俺は、地下で平行世界の移動に必要な、不完全な魔法石に魔力を注ぎ込みながら、考え込んでいた。


俺は、平行世界に移動するための装置は完成したと信じていた。だからシエルをここに連れて来た。

なのに――あれは誤算だった。

実際には、複数ある魔法石のうち、たった1つだけが不完全だった。

だから、シエルが勝手に逃げ出さないように、地下での記憶だけを消して、この魔法石を修復し始めた。

あと数日で、ようやく修復は完成する。

完成すれば、この世界ともお別れだ。

俺のことを追ってくる、この世界の俺とも決別できる。
シエルを取り戻される恐れも、もうなくなる。


1秒でも早く完成させて、すべてを終わらせたい。
だが、焦る気持ちとは裏腹に、まったく集中できない。

それもこれも、昼間に言ったシエルの言葉のせいだ。

『そろそろ帰ろうと思う。冬休みも今日で終わりだし』

魔法石から手を離し、頭をかきながら大きくため息をつく。
「今日は駄目だな……」


勝手にこの島を出ないよう、シエルの魔力位置は常に監視しているが……
あんな事を言い出したシエルの事だ。
もういつ出て行ってもおかしくない状況に、気が抜けない。

この世界のはきっと必死になってシエルを探しているだろう。
だからこそ、シエルをこの島から出すわけにはいかない。
魔力が漏れて、すぐにバレる可能性があるからだ。


とはいえ……この広い世界で、わざわざ南の島を重点的に探すなんてことはないだろうが……


それにしても、明日は始業式か。

この石が未完成だったせいで、予定が大きく狂ってしまった。

こうなってくると、シエルに伝えた通り、あの時、本当にシエルの代わりを学園に作っておけばよかったと後悔が湧き上がってくる。

『代わりを学園に置いてきた』と言ったのは、ただ安心させるための嘘だった。
休日は出欠確認もなく誰も不在には気づかねぇし、すぐにこの世界から俺たちは消えるつもりだったから、わざわざそんな手間をかける必要はないと思っていた。


けど、失敗した結果、こんな時期になってしまった。


この状況はあまりよくない。
このまま始業式を迎えれば、すぐにシエルの不在がバレて捜索が始まるだろう。

でも、俺が今から急遽きゅうきょシエルの代わりを作る為にNIHONに戻れば、この世界のに捕まる危険がある。

そんなリスクを冒さなくても、魔法石はあと数日で完成する。

あと少し、たった数日。


そう考えるとやはり……
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