【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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時を超えた狂愛の檻

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足が勝手に動き、何かの悪い冗談であってほしいと願いながら、俺はシエルの元へ駆け寄った。

シエルの手を取ると、酷く冷たかった。
今まで一度も感じたことのない、絶望的な冷たさが俺の手に伝わり、胸の奥から恐怖が一気に湧き上がる。

「……う、嘘だろ……」

手と足が震える。
まるで悪夢の中にいるかのように、信じられない気持ちで俺は回復魔法をかけ始めた。

「シエル……。助けてやる。だから……お願いだ……」
声が震え、周りの声なんて耳に入らない。
ただ、彼女を失いたくない一心で、無我夢中で魔法をかけ続ける。

遠くで講師の声が響く。
「タチバナさんはもう……」
そんな声など、どうでもいい。


俺の世界には、シエルしかいない。
シエルがいない世界なんて、そんなのありえねぇし、考えたくもない。


「お願いだ……戻ってこい……」
魔力をいくら絞り出しても、シエルは微動びどうだにしない。


冷たい手は何も応えてくれない。
それでも、俺は止められなかった。
シエルを失うことが恐ろしくて、どんなに無力だとしても、祈るように、何度も何度も回復魔法をかけ続けた――


学園の生徒が戦争に駆り出されると聞いたことはある。
だが、そんな兆候ちょうこうは無かったはずだ。


いや……俺が気づいていなかっただけなのかもしれない。
誰とも慣れ合わず、誰とも話さずに過ごしてきたツケが、今になって回ってきたのか?

でも、そうだったとしても、講師業の休みは2か月間だけだ。
しかも、俺が完全に不在だったのは、たった半月に過ぎない。

休みの間に戦争に行く事が決まったのか?
そして手紙を渡した直後に戦地へ向かったのなら、色々と辻褄つじつまが合う。


頭の中に、シエルの言葉が不意によみがえる。

『ディオン……もし、私が……。ううん……なんでもない……』
あの時、眉を寄せ、何か言いたげにうつむいていたシエル。
もしかして、あの時すでに……死を覚悟していたのか?


「シエル……、シエル……どうして……」
俺に言わなかったんだ!

――お前だけでも、絶対に助け出す事が出来たのに!!
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