【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
340 / 395
招かざる訪問者

34

しおりを挟む
何が?と聞かれても、うまく言葉にできないけど……今の状況も、ディオンの態度も、何か引っかかるものがある。

あの時、首を縦に振らなかったから?って、関係ないよね……?

目を閉じて、学園から勝手に連れ出された時のディオンとの会話を思い出す……

『このまま学園を出て、俺と暮らさないか?』

『何言ってるの?冗談?』
『俺は本気だ』
『え……なんで?学園は?そんな事したら、すぐに追われる身になっちゃうじゃない』
『ここに来る時に、お前の代わりを置いて来た』
『えっ……もしかして、その私の代わりに卒業するまで私のフリをさせるってこと?』
『ああ』
『……なんか嫌……っ!そんなの!確かに、あの学園に縛られているのは嫌だし、もっと自由になりたいし、ディオンともっと気軽に学園の外に出たりしたい!でも、みんなが卒業に向かって頑張っているのに、私だけそんな抜け駆けみたいにあの学園を出るのは嫌っ』

『…………分かった』
『でも、私の事を考えてくれた事は……嬉しい。ありがとう』

ディオンはほほを掻いて口を開けた。
『じゃあ、旅行っていうのはどうだ?』
『旅行?』
『どうせ冬休みだし、短期間の旅行なら嫌じゃねぇよな?』
『あ……うん』
ディオンと旅行……
その事に急に胸がおどり出す。

『なら、行くぞ』
『え!?このまま行くの!?私何も持ってきてないよ!』
そう言って今のパジャマ姿をアピールする。

『全部準備してやる』
えぇ~~!?


…………今思うと、ディオンはどういうつもりで一緒に暮らそうなんて言ったんだろう?
私の事を好き……とか?

いや、そんな訳ないよね。
女性に興味も無いし、胸が大きい人が好きだろうし……

自分の胸に手を当てて、思わずガクっと項垂うなだれる。


そういえば、ここに来た時って、どんな感じだったっけ……



そう思って記憶を振り返ろうとしたした時――
ディオンに手を引かれて薄暗い階段を下りて行く映像が、途切れ途切れに流れ始める。


『この平行世界から抜けれれば……』
『えっ?平行世界?』


魔法で開ける重厚なドア。
窓もない薄暗い部屋。

そしてディオンが呪文を唱えると、浮かび上がってくる――怪しげな赤黒い魔法陣。


『やめてっ!』
嫌がる私を、無理やり魔法陣の上に押しつけるディオン。
必死に訴えても、ディオンは私に無視を続けていた。

その時、突然、魔法陣から浮かび上がっていた怪しげな光がスッと消えた。
次の瞬間、ディオンは取り乱したように頭をきむしり、髪を掴んで叫んだ。

『はぁ!!??』

その声に、私は驚きビクッとしてしまう。

『どうして!!今まで成功していたのに、なんでだ!?』
声を荒げたディオンは、ハッと魔法陣を見つめ、静かに呟いた。


『まさか……あの魔法石だけ不完全だったのか……?』


私は、驚くひまもないほどに、次々と断片的によみがえる記憶に、思わず口元に手を当てた。

この世の終わりのような顔をしたディオンの映像が、突然途切れ始めたと思うと……ザザっと頭の中の映像が砂嵐のようにかき消された。

「あれ……?」と、頭を押さえて独り言をらしたその時……


ポンと頭に手が乗る感覚がした。

「また勝手に出たのか?」
あごを上げて見上げると、あきれ顔のディオンが私を見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...