上 下
337 / 367
招かざる訪問者

31

しおりを挟む
「な、なんでもする!あの娘にも、カミヅキにも謝る!だから止めてくれ!痛いのは苦手なんだ!」
なんか、調子が狂うな。そういう演技か?


「ここは元々拷問ごうもんする場所だ。国民の信頼を得るために全うするんじゃねぇのかよ」
「や……でも……」
「この俺が手伝ってやる。早く手を出せ」
そう言うと、青い顔になったヴァイスは体を小さく丸め、足の間に手を隠してぶんぶんと首を振った。


その様子に面倒くせぇなと思っていると、キラキラと光るヴァイスの金色の瞳が目に入って、ふと閃いた。

「じゃあ、その鬱陶うっとうしい目からやる」
俺は、今度はその揺れる瞳孔どうこうに鋭い爪を向けてやった。

その次の瞬間――ヴァイスの黒目はゆっくりと上に上がっていき、白目を向いたと思うと、バタンと後ろに倒れてしまった。


「……えっ?」

よく見ると、口から泡を吹いていて、俺はその姿に驚きポカンと口を開けた。

「ヴァイス様ぁ!」
情けない姿のヴァイスに駆け寄る煌びやかな女たち。

まだ何もしてねぇのに、奴が泡を吹くほど恐怖を感じていたことに、自分の中の殺意がすーっと消えていくのが分かった。


「はぁー……」

俺は、見てはいけない姿を見たような気持ちになり、手で顔をおおって深いため息をつく。そして、そのまま鉄格子の扉をくぐった。

慌てふためく看守たちの横を通った俺は、すっと看守たちの顔面に手をかざした。

「お前らは何も見てねぇ」

そう呟いて、その場にいる看守たち全員に記憶改ざんの魔法をかけて、俺はすぐにラグーナ島を目指した。


シエル目線――

『結婚しないって言わねぇんだったら、一生帰さない』
『なんで!?あなた、前から一体何なんですか!?』

『俺が……どういう思いで……っ!!……結婚なんてしてみろ。絶対お前をぶっ殺してやるからな』

…………

……

目元を覆い隠していた手を外すと、眩しい朝日が差し込んで眉をしかめた。

「……また……」
そうつぶやいてから再び目を閉じる。


長い髪のディオンの姿を見てから、こんな風に前世の夢を見ることが多くなった。

いつも断片的な映像。
最初は私が作り出した映像だと思っていたけど、それにしては上手く出来過ぎている。
だから、長年抜け落ちていた前世の記憶なんだと思うようになった。

ずっと、殺される前の記憶だけが思い出せなかった。
でも今、その記憶なぜかよみがえりつつあるようだ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...