【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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招かざる訪問者

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私も誘惑に負けてそっと足を海に浸してみると、瞬時にひんやりとした感覚が広がった。
「ひぇ……。冷たっ……」

波が足元を包み込み、砂の柔らかな感触が足裏に心地よく伝わってくる。


「当たり前だ。何月だと思ってんだ」
砂浜側に立つディオンは、「ん」と言って握手するように手を向けてくるから、なんの手だろうとジッと見る。

「何見てんだ。さっさと出ろ。風邪ひくだろ」
「えっ、全然大丈夫だよ?冷たいけどそこまでじゃないし」
「んなわけねぇだろ」
「本当だよ」
私の返事に、ディオンがため息をつく。

「そういえば、ディオンと外に出るの……、お祭りの日ぶりだね」
今回は、私の意志に関係なく連れて来られてしまったけど……

「祭り?」
「ほら、建国祭の」
「っ……、ああ」
後頭部に手を回した後に出て来た歯切れの悪い返事に、またもや追及するほどでもない小さな違和感を覚えた。


今日は講師たちの仕事納めで、夕方から講師棟では盛大な打ち上げが行われていて、その賑やかな声がずっと聞こえていた。

戦勝パーティの時も、ディオンはワイングラスを手にしていたし、顔に出ないだけで今も酔っているのかもしれない。

意外とお酒好き?
それとも……、あのFクラスの講師に迫られて、たくさん飲まされた?

あの大きな胸に、大人の色気。
そして私にはない、あの押しの強さ。
それに、あの日のディオンは酔っていたのか、女生徒に囲まれても嫌な顔ひとつせずにいた。

あの時の様子を思い出すと、胸の中でモヤモヤした感情が膨れ上がっていく。

どうにもならない苛立いらだちがこみ上げて来て、私は思わず海面を強くりつけた。

すると、月の光を反射した水の粒がきらめきながら、しぶきとなってディオンに降りかかる。

「……冷たっ」

ディオンは突然の水しぶきに驚いた後、露骨ろこつ鬱陶うっとうしそうな顔を向けた。


「おい、何やってんだよ。かかっただろ」
私は、そんなディオンにプイッと顔をらして口を膨らまして背を向けた。

「酔い覚ましにちょうどいいんじゃない!?」

すると、「誰が酔っ払いだ」という言葉と共に、私の腕に冷たい水が飛んできた。
ヒヤリとした冷たさが容赦ようしゃなくパジャマにしみ込んでいく。

振り返ると、私に指を向けているディオンが映り、即時に犯人が判明する。

「やったわね!」

私はすぐに水をすくって思いっきりディオンにかけた
……はずだったけど、ディオンはいつの間にかシールドをかけていたようで、私のかけた水は全部シールドを伝って下に流れていく。

なのに、ディオンはシールド越しに何度も水を飛ばしてくるから、ほほをパンパンに膨らませた。

「ず、ずるい!シールドを使うなんて!!」

そんな私を見ていたディオンは、ククッと笑った。
もっと怒るはずだったのに、その笑顔を見せられた私は、それ以上なにも言えなくなった。

直後、一気に来た寒気にブルっと全身が震え、自分の肩を抱いた。

「さ、さむ……」
私の言葉を聞いた途端、ディオンは海面に足を浸け、バシャバシャと音を立てながらこちらに向かってくる。

目の前で立ち止まったディオンの瞳は、とても優しくて、「馬鹿だろ」とつぶやきながら私の手を握ってきた。
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