【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
330 / 395
招かざる訪問者

24

しおりを挟む

私も誘惑に負けてそっと足を海に浸してみると、瞬時にひんやりとした感覚が広がった。
「ひぇ……。冷たっ……」

波が足元を包み込み、砂の柔らかな感触が足裏に心地よく伝わってくる。


「当たり前だ。何月だと思ってんだ」
砂浜側に立つディオンは、「ん」と言って握手するように手を向けてくるから、なんの手だろうとジッと見る。

「何見てんだ。さっさと出ろ。風邪ひくだろ」
「えっ、全然大丈夫だよ?冷たいけどそこまでじゃないし」
「んなわけねぇだろ」
「本当だよ」
私の返事に、ディオンがため息をつく。

「そういえば、ディオンと外に出るの……、お祭りの日ぶりだね」
今回は、私の意志に関係なく連れて来られてしまったけど……

「祭り?」
「ほら、建国祭の」
「っ……、ああ」
後頭部に手を回した後に出て来た歯切れの悪い返事に、またもや追及するほどでもない小さな違和感を覚えた。


今日は講師たちの仕事納めで、夕方から講師棟では盛大な打ち上げが行われていて、その賑やかな声がずっと聞こえていた。

戦勝パーティの時も、ディオンはワイングラスを手にしていたし、顔に出ないだけで今も酔っているのかもしれない。

意外とお酒好き?
それとも……、あのFクラスの講師に迫られて、たくさん飲まされた?

あの大きな胸に、大人の色気。
そして私にはない、あの押しの強さ。
それに、あの日のディオンは酔っていたのか、女生徒に囲まれても嫌な顔ひとつせずにいた。

あの時の様子を思い出すと、胸の中でモヤモヤした感情が膨れ上がっていく。

どうにもならない苛立いらだちがこみ上げて来て、私は思わず海面を強くりつけた。

すると、月の光を反射した水の粒がきらめきながら、しぶきとなってディオンに降りかかる。

「……冷たっ」

ディオンは突然の水しぶきに驚いた後、露骨ろこつ鬱陶うっとうしそうな顔を向けた。


「おい、何やってんだよ。かかっただろ」
私は、そんなディオンにプイッと顔をらして口を膨らまして背を向けた。

「酔い覚ましにちょうどいいんじゃない!?」

すると、「誰が酔っ払いだ」という言葉と共に、私の腕に冷たい水が飛んできた。
ヒヤリとした冷たさが容赦ようしゃなくパジャマにしみ込んでいく。

振り返ると、私に指を向けているディオンが映り、即時に犯人が判明する。

「やったわね!」

私はすぐに水をすくって思いっきりディオンにかけた
……はずだったけど、ディオンはいつの間にかシールドをかけていたようで、私のかけた水は全部シールドを伝って下に流れていく。

なのに、ディオンはシールド越しに何度も水を飛ばしてくるから、ほほをパンパンに膨らませた。

「ず、ずるい!シールドを使うなんて!!」

そんな私を見ていたディオンは、ククッと笑った。
もっと怒るはずだったのに、その笑顔を見せられた私は、それ以上なにも言えなくなった。

直後、一気に来た寒気にブルっと全身が震え、自分の肩を抱いた。

「さ、さむ……」
私の言葉を聞いた途端、ディオンは海面に足を浸け、バシャバシャと音を立てながらこちらに向かってくる。

目の前で立ち止まったディオンの瞳は、とても優しくて、「馬鹿だろ」とつぶやきながら私の手を握ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...