【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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招かざる訪問者

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ジョウガサキは、すっと僕のズボンのポケットを指さした。



「え?」
そう言われて、さっきポケット入れたばかりの彼女からの応援クッキーを取り出した。

すると、ジョウガサキの目がみるみると大きくなっていった。

「サオトメ……お前、これどこで手に入れてん。えらい可愛らしいけど、まさか誰かに貰ったんか?」


「え?そうだけど……」
「それ、食べるんちゃうやろうな?」
「食べるよ。当たり前だろ。せっかく僕のために作ってくれた物なんだから」
「食べんな」
「何言ってるん……」
「ええから!そんなん食べたらアカン!」
血相を変えたジョウガサキは、いきなり僕の手から応援クッキーを取り上げた。


「おい、何するんだよ!返せ!」
驚き目を見開き、取り上げられたクッキーに手を伸ばしたその瞬間、クッキーは目の前で勢いよく燃え上がり、チリのようなものがパラっと廊下に落ちた。

「…………は?はぁーー!?ジョウガサキ、何しててくれるんだよ!」

地面に落ちた黒いカケラを見ては、怒りがわなわなと湧き上がる。

毎年健気けなげに応援してくれているソフィアの純粋な気持ちを、無下にされたことが、信じられないくらいムカついた。

でも顔を上げると、なぜか僕より苛立イラった顔をしているジョウガサキが目に入り、訳が分からないと思った。


なんなんだ……

なんで僕よりも怒ってるんだ?


とりあえず、最近は実はいい奴だと思ってきたけど、それは完全に勘違いだったみたいだ。

僕の中で納まりきらない怒りが渦巻いた。

…………

……


ディオン目線――

「いねぇ……」
時計台のてっぺんに足を降ろし、夜の色に染まるこの学園を見下ろす。

どれだけ探しても、あの時以来、一度もあの魔力は見つからない。
もう学園には居ないのか?

「相変わらず神隠しみてぇだな」


俺は、あのパーティ会場で俺に酷似こくじした魔力を見つけてから、ずっとその魔力元を追っている。

だが、何か特別な魔法でも使っているのか、姿を見ることすら叶わない。
が探し続けているというのに。


この現象は、今回が初めてではない。
最初に感じたのは、ここで特別講師として正式に働き始めて数か月経った頃だった。

それ以来、同じような現象が何度も学園内で繰り返されている。

ほんのわずかに残る、俺と全く同じ魔力。

気持ち悪くて後を追う日々。

でも、いくら探しても魔力の主は見つからず、すぐにその気配は消えてしまう。


やがて、その魔力は一切感じられなくなった――そう思った矢先、学園外で再び感じた。


俺はついに、その正体不明の魔力を追うために講師の職を辞め、国籍まで変えて世界を回った。

でも、この俺がそこまでしても全く尻尾しっぽをつかむことは出来なかった。


世界は広く、場所が違うのか、魔力を感じない期間がどんどん長くなっていった。

気がつけば2年も経っていた。


そこでさすがにもう無理だと諦め、この学園に戻ってきたところ、ちょうどシエルが打たれそうになっていた時だった、というわけだ。

記憶が曖昧あいまいだが、今の半分くらいの背丈だったシエルに会ったのは、もっと前の何度かやっていた臨時特別講師の時だったと思う。


魔力には個性がある。
全く同じ魔力なんて絶対にありえない。

なのに、この魔力はどっからどう見ても俺のもので間違いない。


そう考えると、いつも頭に有り得ない考えが浮かんでしまう。


――もう一人俺がいるんじゃないか、と。
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