【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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俺は、お前が……

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雨は次第に豪雨になり、地面に雨がたたきつけ始めた。
なのに、ヴァイスだけは雨に濡れていない。


はかない命を必死で守る姿って、滑稽こっけいで美しいと思わないか?みな必死に守っているその命は、僕のこの指先一つでいとも簡単に摘んでしまえるのに」
ヴァイスはすっと自分の綺麗な人差し指を見せたあと、独り言のように続けた。

「でも、誤って女性を殺してしまうのは結構胸が痛いんだよね。まぁ遠くて殺した実感がないから、結局いつもっちゃってるけど」


ヴァイスの言葉に、瀕死ひんしになって倒れていたメイや、アラン、ローレン、クラスメイトの顔が浮かんでくる。


「……と思っているの……」

怒りに全身が震えてくる。
私達は、必死に生きているのに、そんな、ただ面白いだとかいう理由だけで……


「ん?なんだい?」

「私たちの命を、何だと思っているの!!」
「何って……僕の遊び道具だよ?」

「……ゆ、るさない……」
その瞬間、体が燃えるように熱くなった。

「絶対、あなただけは許さない!!」
あのネックレスを外した時のような、爆発しそうな魔力が、指の先まで溢れ出すのを感じた。

真っ白に輝く髪がふわりと舞い上がり、辺り一帯に光が浮き上がる。


「おおっ……」
ヴァイスはそんな私の様子を見ると、惚れ惚れとした表情に変わった。

「なんて魔力……想像以上だ。……欲しい……」

伸ばしてくるヴァイスの手が目に映った途端とたん、私はその手を叩き落とした。
そして次の瞬間には、ヴァイスを空高くに吹き飛ばしていた。

彼の姿が見えなくなるほど小さくなっているのに、怒りが収まらない。
攻撃の手が止まらない。
無我夢中で怒りをぶちまけるように魔力を込め続けた。

すると、次第に意識が朦朧もうろうとして来て、視界がぼやけ、薄れていく――



ディオン目線――

意識が戻り、薄くまぶたを開けた。

かすむ視界に、不自然なほど攻撃を放ち続けるシエルが映った。


そのシエルの髪は白い。
なぜだ……

「シ……ル……?」
のどに焼けたような痛みが走り、かすれた声が出た。


その時、先ほど攻撃に当たってしまった事を思い出す。
あんな攻撃を受けたのに、まだ生きているって事は、もしかしてシエルが治癒魔法を……?


そう思ってヴァイスの姿を探すが、見当たらない。
魔力に意識を向けると、ここにはヴァイスは居ないように思えた。

俺が意識を失っている間に、一体何が起こったんだ。


「……エル……」
俺の声に全く反応しない。
どこかに攻撃し続けているその姿に、やっとひどい違和感を覚えた。

全身焼けるような痛みの中、なんとか体を起こした。


何かがおかしい……。


その正体を確かめようと、ガクガクと震える体をふるい立たせて立ち上がり、「おい」とシエルに声をかけ、覗き込んだ瞬間――

瞳孔が完全に開ききったままのシエルが、俺の目に映った。


その時、ある予感が頭をよぎる。
「まさか……」
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