【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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裂かれた大地

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「会話までは聞こえなさそうだったけど。念のため俺の名前は呼ぶな。バレたら後で面倒くせーから」

その言葉に静かにうなづくと、貼られたテープがめくれて地面に落ちた。
その瞬間を待っていた私は、すぐに口を開けた。

「ローレンやアランが大変なのっ。それに……他みんな、も……うっ……」
話しているうちに、感情がこみ上げてきて泣きじゃくってしまい、うまく言葉が出てこない。

「こ……このままじゃ死んじゃう……、もう、死……んじゃ……死んじゃって……かも……うっ……どうし……っ……」
涙を拭いながら言葉をつなぐ私の頭に、温かい手がそっと乗せられた。

ディオンはそのまま優しくポンポンと頭をで、「落ち着け」と静かに言った。

泣き顔のままディオンを見上げると、そんな私を見つめたディオンは静かに眉をひそめた。
そして、そのまま周囲をぐるりと見回した。

「……大丈夫だ。まだみんな生きてる」
ディオンの言葉に、パッと心が晴れる。
「本当!?」


「ああ、だからさっさと回復してやれ。あんま放置すると手遅れになる奴もいる」
「え、うん……」

ディオンの言葉に、足元に居たアランに回復魔法をかけようとすると、ディオンは「あっちの女みてぇなやつが先だ」とローレンに向かってあごをさして続けた。

「えっ……」
「お前の足元にいる奴は魔力の覚醒者だろ?だから、今でも勝手に自己回復してる。ただ気を失ってるだけだ。それくらいじゃ死なねぇ」

「そ、そうなんだ……分かった!」
ディオンの言葉に、すぐにローレンの元に駆け寄って回復魔法をかけ始めると、ディオンは私の後ろにふわりと飛んで来る。

「そいつの回復が最低限終わったら、あいつと……あいつ」
ディオンは、倒れて動かない空兵と歩兵を指さした。


「あいつらが終わったら、全体に軽くでいいから回復魔法をかけたほうがいい。熊野郎を殺したくねぇんだったら、くれぐれもお前の魔力が尽きないように気を付けろよ」
「うん」

「あと、お前のネックレスに、自己回復を高める効果を備えてある」
「えっ……このネックレスに?」
なんでそんな効果が……

「そのネックレスから力を引き出すイメージをすれば、お前の回復力は今よりも早まるはずだ」
「そうなんだ。分かった」

すぐに、回復魔法をかけていない方の手でネックレスを握り、言われた通りにイメージしてみる。
すると、本当にさっきよりも魔力が回復していくのが体感で分かった。



私はディオンに、感謝の気持ちで顔を上げて見つめた。

「んだよ」

「……ありがとう……ディオン」
笑顔でそう言うと、「本当、世話のかかる奴だ」と言って、頭を掻きながら背中を向けた。



「そろそろあっち側が体制を立て直しそうだな」
「えっ」
敵陣側を見ると、さっきまで爆風でめちゃくちゃになっていた体制が、少しずつ立て直されているのが見えた。

「片付けてくるか。お前はここに居とけ」
ディオンはふわっと浮かび上がり、私の返事を待たずに敵陣に向かって一目散に飛んで行った。

ディオンの背中を見送りながら、私の中で安堵あんどと不安が入り混じった。

そして、嫌な予感が走った――
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