【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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裂かれた大地

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近くにいた歩兵隊が駆け寄って来たと思うと、すぐにローレンに回復魔法をかけ始めた。
「サオトメ様は私が治療します!だからタチバナさんは、早く空の壁を……っ」

正直、目が覚めるまでそばに居たい。
「あ、りがとうございます。……お願いします」

でも、そんな気持ちを抑えて涙をぬぐって立ち上がり、雲行きの怪しい空を見上げた。


ちょうどその時、手薄になっていた上空の壁が完全に割れて、飛んで来ていた攻撃が次々と上空部隊に当たって行く様子が映った。

「……っ!」

上空部隊がすぐに落下し始める。

その光景に、心がこおりつく。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

でも、これは現実だ。


これは、私が引いた引き金だ……

私のせいで……

私が抜けたせいで……っ!!



頭の中が混乱し始め、冷静な判断ができなくなる。
胸が苦しくて息ができない。
どうしようとあせる気持ちが渦巻く。

そんな自分をふるい立たすようにして、空に向かって大きく手を広げた。


その瞬間、大きな風が起こる。
自分の髪がふわりと空に向かってなびく。

広範囲で風を巻き起こしたことで、地面に竜巻のような渦が出来上がった。
落下していた空部隊全員がその風に乗ったのを確認し、ゆっくりと地面に降ろした。

上空部隊達の元へ歩兵隊が駆け付ける様子を見た瞬間、安堵あんどの気持ちあふれ出てきた。
すると、すぐに立っていられない程のひどい疲労感がどっと押し寄せ、私はそのままひざをついた。


「もう、動けない、かも……」
自分の髪の色を見なくても分かる。
もう私に魔力なんてほとんど残ってないって。


そう思っていると、横からとんでもなく大きな魔力が近付いてくるのを感じた。

ドキっとして目をやると、先ほどまでとは比べ物にならない程の大きさの球が、敵陣から飛んで来ているのが見えた。


それを目にした瞬間、あの魔力の主がついに重い腰を上げたんだと思った。

今すぐにでも、この攻撃から逃げればいいのに、私は絶対逃げれないと思った。


だって、足元には倒れているローレンと、回復魔法をかけてくれている歩兵がいるのだから。



1人なら逃げれるはず。でも3人なら……難しいだろう。
かといって、この2人を置いて逃げるなんて絶対に出来ない。


攻撃を跳ね返す?
魔力が余裕だった時は出来る可能性もあっただろう。でも……今の魔力では……


どの選択肢も選べない私は、迫りくる光の球を見つめたまま固まってしまった。


何もできないまま光に飲み込まれてしまう。
そう思った時、私に大きな影が落ちた。
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