【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
274 / 395
裂かれた大地

13

しおりを挟む

でも、このまま放置すると死ぬ可能性もある。
医者の息子として、助かる命を見殺しになんて出来へん。
なにより、こいつらがまだ黒やと決まったわけちゃうんやし……

俺は奥歯を噛み締めながら、こんな姿のシエルちゃんを他の奴らに見られないよう、ローブを脱いでシエルちゃんの胸元にそっとかけた。

「え?どうしたんだ、これ……」
喧嘩ケンカか?」
「管理事務員呼んでくる?」

そんな会話に、ベッドから降りてドア側に向かった。
俺の目に、運良く同じ階の仲の良い奴ばかりが映った。

「えっ、アラン!?」
「まさかこれ、アランがやったのか!?」
皆、目を丸くして俺を見る。

まだ迷いは拭い去れない中、俺は眉をひそめて口を開けた。
「頼む、手伝ってくれ」

俺はこう言うしかなかった。
こうしな、俺はこいつらを殺してしまいそうやから……



色々考えた結果、俺は、シエルちゃんがこの場にいたことは秘密にしてもらう事にした。
こんな事が学園中で知られたら、あまりにもかわいそうだと思ったからだ。

幸い、俺の意見に全員が一致して賛同さんどうしてくれた。

すぐに倒れていた男たちを保健室まで運び込み、その後は人があまり出歩かない夕飯時間を待って女子寮に向かう事にしたが……

「待ってや……」
シエルちゃんを抱きあげた瞬間に思った。

「ん?」
「今さらなんやけど、人通りの少ない壁際の道で行くにしても、こんな状態を誰かに見られたら、俺ら一巻の終わりちゃうか?」
シエルちゃんはずっと目を閉じている。
ご飯時間に、寝ている女の子を女子寮に運んでいる様子なんて、一瞬目にしただけでも怪しい以外何者でも無い。

「そうだな。完全に終わりだな」
「じゃあシーツでもかければいいんじゃない?」
と保健室から帰って来た友人はこの部屋にあったシーツをシエルちゃんにかぶせる。

「なんか余計怪しいし目立つわ!」
と、すぐにシーツを取っ払う俺。


「ってか、あいつら目覚めたか?」

「ううん。まだ。保健室の看護師は、ある程度回復したあとはしばらく席外すって言ってたから、そのタイミングで叩き起こして何があったのか聞こう」
「……そうやな」


それにしても、どうしたもんやろう……。

見つからないようにする為にも、俺一人やと無理や。
でも……野郎数名と、気を失ってる絶世の美少女シエルちゃん。
しかも衣類の状態も思わしくない。

こんな状態で見つかったら、その時点でほぼアウトや。


男子寮から女子寮はある程度の距離がある。
完全に誰にも見つからずに到着するなんて事は、めっちゃ難しいはずや。


透過とうか魔法や瞬間移動が使えたら一番楽そうやけど、そんなの使える生徒は学園内におらん。

浮遊ふゆう魔法を使える人間はいるけど、シエルちゃんとサオトメしか知らん。

なら頼めるのは自然とサオトメになるんやろうけど……、こんなシエルちゃんをあいつが目にしたら…………絶対ヤバイ。
保健室が血まみれになる大惨事だいさんじが一瞬で想像出来てしまう。


……なんかいい手はないもんか……


うーん、と唸りながら考えていると、ふとある方法を思いついた。

「あっ!せや!お前変身の魔法使えるようなったって言ってへんかったっけ?」
そう言って友人に顔を向けた。

「使えるようになったけど、大した変身は出来ないよ……ってまさか!」
友人のキョトンとした顔が、すぐに驚く顔に変わった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...