【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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裂かれた大地

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「な、……何しとんねん!お前!!」

アランが凄い勢いで駆け寄って来て、そのままの勢いで主犯格を殴り飛ばした。
すぐに、ベッドに仰向けで倒れた主犯格の胸倉を掴んで半身を起こさせると、アランは怒りに震えた声で言った。

「俺、言うたで。次は絶対許さへんって!!」
とアランが叫ぶと、突然とつぜん主犯格の男が「ぐっ……」と苦し気な声を出して自分の首をつかんだ。

「は……?なんや」
目を大きくしたアランは、すぐに主犯格から手を離して一歩下がった。
すると主犯格は、苦しげにもがいてベッドから転げ落ちた。


「やっぱ、そういう事かいな……」



戦争前日
~ジョウガサキ・アラン目線~


俺はいつものように男子寮の廊下を歩いていると、なぜかシエルちゃんらしき魔力を感じた。

こんな所にあるはずのないのに、と思いながら意識を研ぎ澄ませると、さっき通り過ぎた部屋からシエルちゃんの魔力が強く感じられた。

訳が分からなくて振り返って首を傾げる。
シエルちゃんの魔力が強く感じる部屋の前まで歩いていき、扉の明かり確認用の小さな窓を見上げると、中は明るかった。


この部屋の主は、部屋が同じ階なだけで話した事はない。
朝、挨拶あいさつをしても無視するような、いけ好かない奴や。

あんな奴とシエルちゃんに面識が……?
しかも規約違反をしてまで部屋に遊びに来るなんて考えられへん。来るなら俺の所やろ。1番仲ええんやし。

そう思うんやけど……なぜか俺の能力がここで間違いないと言っている。
どうなってんねん。


最近、みんなの様子がおかしい。
やから、今なら何が起きても不思議じゃない状況に、不安しか沸かない
最近、みんなの様子がおかしい。やから、今なら何が起きても不思議ちゃう。

ゴクリとつばを飲んでから、気のせいであってほしいと願って、ノックをする。

「同じ階のDクラスのジョウガサキ・アランや。ちょっと確認したい事があるんやけど」



そう言っても返って来るのは静けさだけ。
念のためしばらく待ってみたけど何も反応がない。

「おい、誰もおらんのか?」
と声をかけても反応がない。

「なんや。電気消し忘れか?」
つぶやいてから、念のためドアに耳を当てると、「……け……て……」と、男性の苦しそうな声がかすかに聞こえて来た。


「えっ……!?」
いま、『助けて』って聞こえた……よな?

信じられない気持ちで、今度は目を閉じて耳を澄ますと、「た……すけ……て……」と、確かに助けを求める声が聞こえた。


こらアカン!きっと何か大変な事が起こってるんや!
「悪い。入るで」
そう思って、すぐにドアノブを回してみるけど、鍵がかかってて開かない。

魔法でカギを開けようと試みるけど、コントロールりょくがまだまだだと言われている俺は、ガチャガチャと音が鳴るだけで上手く開けれない。

ここは1階やし、外から窓を割って入るか?
いや。ドアも開けれず、ハッキリ『助けて』とちゃんと言えない状況なんやったとしたら、グルっと回ってる時間は無いかもしれん。地味に遠回りやし。

「俺、こういう繊細な魔法はめっちゃ苦手やねんけどなぁ」
そう独り言を言いながら、もう1度ドアノブの上に手をかざし、鍵を回すイメージをする。
すると、カチャンと小さな音がした。

「あ……いた……?」
ホンマかいな。
前までやったら、こんな繊細な魔法、絶対出来へんかったのに。
目に見えへんコントロール力ってやつが、俺の知らん間に上達してたんやろうか、と思いながらドアを開けると――
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