268 / 395
裂かれた大地
7
しおりを挟む
「お疲れ様」
と微笑まれて驚いた。
休憩に入る前のローレンは、笑顔なんて見せる余裕もない程に疲弊した様子だったからだ。
それに髪色もほぼ黒だったのに、今は黒い筋のメッシュが入っている状態になっている。
「お、お疲れ様です」
「やっと休憩に入ったんだね。シエルちゃんがうちのチームで最後だね」
「はい」
「ご飯まだだよね?」
「はい」
「さっきまでそこにあったんだけど、ちょうどアランが食べきったからアランが追加分を取りに行ってるんだよ。もう少ししたら戻ってくると思うよ」
と、ローレンはテントの真ん中にある大きな机の上をさした。
「そうなんですね。それよりローレンの髪色、ほとんど普段の色に戻ってますけど……」
こんな短時間で、どうして。
「あれ?もしかして指揮官の話聞いてなかったの?この休憩所は、魔力回復が早くなる魔法が掛けられてるって、初めに話していたよ。しかも体力回復効果もあるとか」
そうか。それで何個かあるテントのうち、司令官は場所指定をして来たんだ。
「隣、座っていいかな?」
「はい」
と言うと、ローレンは微笑んで、メイがさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。
「ごめんね。こうなるって分かっていたのに早く教えてあげれなくて」
「えっ!?そんなこと気にしないで下さい。元々言ってはいけない事だったみたいですし、それに講師の目もあったんですよね。だから仕方ないと思います」
「ううん。僕が臆病なだけだよ……」
「前にも言いましたけど、ローレンは臆病じゃないです」
と言うとローレンは首を振って眉をひそめた。
「シエルちゃんの目から僕はどう映っているのか分からないけど、僕は肝心《かんじん》な時に全然駄目な男なんだよ……。本当、情けないほどにね」
と話していると、テントを覗くように入って来た自衛隊が「お前ら、ちゃんと時間見てるか」と言ってきた。
テントの中にいる人達は、その言葉に各自時計を見ては、ダルそうに立ち上がって行く。
「サオトメも時間だろ」
「はい。すぐ行きます」
ローレンがそうと答えると、他の人達はローレンを置いてゾロゾロと出て行った。
そして気付けばテント内は、すぐに私とローレンだけになっていた。
「行かなくて……大丈夫なんですか?」
そう言うと、小さな沈黙が流れた。
ローレンは伏し目がちにうつむき、その静寂を破るように口を開いた。
「シエルちゃん……」
伏せていたビー玉のような瞳が、ゆっくりと私に向けられた。
その目には、揺るぎない決意が宿っているように見えた。
「……はい」
と微笑まれて驚いた。
休憩に入る前のローレンは、笑顔なんて見せる余裕もない程に疲弊した様子だったからだ。
それに髪色もほぼ黒だったのに、今は黒い筋のメッシュが入っている状態になっている。
「お、お疲れ様です」
「やっと休憩に入ったんだね。シエルちゃんがうちのチームで最後だね」
「はい」
「ご飯まだだよね?」
「はい」
「さっきまでそこにあったんだけど、ちょうどアランが食べきったからアランが追加分を取りに行ってるんだよ。もう少ししたら戻ってくると思うよ」
と、ローレンはテントの真ん中にある大きな机の上をさした。
「そうなんですね。それよりローレンの髪色、ほとんど普段の色に戻ってますけど……」
こんな短時間で、どうして。
「あれ?もしかして指揮官の話聞いてなかったの?この休憩所は、魔力回復が早くなる魔法が掛けられてるって、初めに話していたよ。しかも体力回復効果もあるとか」
そうか。それで何個かあるテントのうち、司令官は場所指定をして来たんだ。
「隣、座っていいかな?」
「はい」
と言うと、ローレンは微笑んで、メイがさっきまで座っていた椅子に腰掛けた。
「ごめんね。こうなるって分かっていたのに早く教えてあげれなくて」
「えっ!?そんなこと気にしないで下さい。元々言ってはいけない事だったみたいですし、それに講師の目もあったんですよね。だから仕方ないと思います」
「ううん。僕が臆病なだけだよ……」
「前にも言いましたけど、ローレンは臆病じゃないです」
と言うとローレンは首を振って眉をひそめた。
「シエルちゃんの目から僕はどう映っているのか分からないけど、僕は肝心《かんじん》な時に全然駄目な男なんだよ……。本当、情けないほどにね」
と話していると、テントを覗くように入って来た自衛隊が「お前ら、ちゃんと時間見てるか」と言ってきた。
テントの中にいる人達は、その言葉に各自時計を見ては、ダルそうに立ち上がって行く。
「サオトメも時間だろ」
「はい。すぐ行きます」
ローレンがそうと答えると、他の人達はローレンを置いてゾロゾロと出て行った。
そして気付けばテント内は、すぐに私とローレンだけになっていた。
「行かなくて……大丈夫なんですか?」
そう言うと、小さな沈黙が流れた。
ローレンは伏し目がちにうつむき、その静寂を破るように口を開いた。
「シエルちゃん……」
伏せていたビー玉のような瞳が、ゆっくりと私に向けられた。
その目には、揺るぎない決意が宿っているように見えた。
「……はい」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる