【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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裂かれた大地

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「大丈夫だよ。結構余裕かも?」
「えっ……?」
「途中から、やる事が実技と変わらない感じに思えて来て……、そう思ったら意外と平気になって来ちゃって」
ははっと笑ってのけるメイに、驚きを隠せない。

実技と変わらない?って、そんなわけ……

「アランの強力な壁のお陰なんだろうけど、こっちまでは一切攻撃も飛んでこないし、前もよく見えもしないし、ただ長時間ずっと壁を作ってるだけって感じ。暇だから、ずっとネリーシャと喋りながら壁作ってるよ」

何……それ。

メイの話で、上空と地上では全く違うんだと知った。
メイやアラン達はとても安全そうで良かったと思う反面、どうしようもない不満みたいなものもを感じてしまう。


空側そっちはどう?」
「えっ」
「時々気になって上を見上げるんだけど、私視力悪いのに遠くて小さいし、逆光とかもあってよく見えなくて」
そう聞かれて、こちら側の攻撃に当たって、苦し気な顔で落ちて行ったリヴァーヴァル帝国の人間や、傷付いた仲間の姿を思い出す。



「……こっちは……全然、余裕では……無いかな……」
自分の眉頭が吊り上げられ、悲しみから視線を落としてしまう。

「そうなんだ。やっぱり上空は人が少ないからなのかな……。あっ!でも、そんなシエルに朗報ろうほうだよ!」


朗報ろうほう……?」
「そう!このままいけばNIHONが圧勝するって言われたよ!」
「え?そうなの?」
「うん!」

その言葉に、少し心が明るくなった気がした。

初めての戦争で、今がどういう状況なのかなんて判断出来ない。
でも、確かにド素人の私から見ても、NIHONが押しているような感じはしていた。
と言う事は、その言葉は本当なのかもしれない。


「さっき指揮官がそう話してたし」
「そうなんだ……」
「早くこんな事を終わらせて、いつもの生活に戻りたいね」
「うん……」
本当に……


また、いつものベンチでメイの恋の妄想に付き合わされながらクレープを食べたり、ルイーゼの部屋で押し掛けるようにしてパジャマパーティーしたり……
そんな、何気ない幸せのあふれた日常に戻りたい。


あと……
ディオンと早く仲直りをしたい……。


ディオン……。
助けてやるって言ってくれたけど、あの感じだと、もう助けには来てはくれないんだろうな。

ディオンが戦地に来てしまったら、国の暗黙のルールというのに反することになるから、これでよかったのかもしれないけど……。


魔力を目視で見える人は限りなく少ないらしいけど、感じることができる人は意外と多い。
それは魔法自衛隊も同じだ。

そのせいでディオンは名乗らなくても、一部の魔法使いからすると、遠くからでもディオンだと分かる。見た事、会った事がある人限定だけど。


だから、もしディオンが一瞬でもこの戦地に現れたら、こんなに沢山の魔法使いがいる中でディオンの存在が誰にもバレないなんて、完全不可能。


だから、これで良かったんだ……。

そう思うのに……やっぱり悲しい。



「マジマ・メイさん、時間だよ」
テントの中にいた人がそう言うと、「あ、ほんとだ」と言ってメイは私に手を振って出て行った。

テントを出た所に友人が居たようで、普通に話しながら戦地に向かうメイを見届ける。

本当に歩兵側は余裕なんだなと再確認したような気持ちでいると、再びテントのカーテンが開いた。


「あ、シエルちゃん」
そう呼ばれて見ると、テント入口に、私より先に休憩に入ったはずのローレンが立っていた。
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