【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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裂かれた大地

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到着して、すぐに戦争が始まった。

上空部隊のサポートである私たちのチームは、言われていた通り、すぐに上空部隊の最前線で戦う魔法自衛隊を守る壁を作った。

でも時々、壁を貫通するほどの魔法がぶつかり、そのせいで負傷者ふしょうしゃが出る。

負傷者が出れば、サポートである私達が治癒をした。
まれに、治癒出来ない程の負傷を負う者もいた。その場合はすみやかに怪我けが人用テントに運んだ。


最初は横にあったはずの太陽が、いつの間にか頭上に来ていて、そして気付けば日がかたむいていた。

私達チームは攻撃部隊ではない。
だから魔法自衛隊のじんが崩れない限り、基本誰も殺さないと前もって聞かされていた。

でも、目の前でも、自分のはるか下でも傷ついて行く人たちを目にした。
そのたびに、胸が締め付けられるような苦しさを感じた。

彼らの傷みが伝わって、自分もいつか同じ運命を辿たどるのではという不安に押しつぶされそうにもなる。


どの国であっても、同じ人間なのに……。
同じ人間同士がこうして生死をかけた戦いをしている事に、激しいいきどおりを覚えた。

でも、そんな感情にひたる暇もない程、私は味方である同じNIHON人を守る事に必死だった。


周囲の状況を見極め、時々壁を割って貫通かんつうしてくる敵の攻撃を避けながら、仲間と呼ばれる人間を守る。

少しでも多くの仲間を救いたいという一心で動いているこの行動は、相手国の人間を苦しめる行為で、考えば考えるほどに滑稽こっけいに思う。

もう何が正しいのか、何が間違っているのか分からない。

でも、恐怖と怒り、そして不安や不満に襲われながらも、自分をふるい立たせて前に進んだ。



現実問題、今の私はそうするしかなかったから……。



そんな状況が半日ほど続いた頃、初めての休憩時間が訪れた。
それは戦争が始まって12時間後の夜だった。


指定された休憩用テントに入ると、休憩所周辺にただよっていたいい香りが更に濃くなった。
そして、各々おのおの休んでいる数名の生徒と魔法自衛隊の姿が目に入ってきた。


「お疲れ」


そんな声に目をやると、テント入口すぐ横の椅子に座るメイが見えて、思わず飛びつくように抱きしめた。

「メイ!」
良かった……生きてた!!

「怪我は無い!?大丈夫!?」
肩をつかんで引き離し、メイの足先から頭のてっぺんまで確認する。

私の質問に困ったように笑って首を傾げるメイは、不思議なほどに落ち着いた様子だ。


「大丈夫だよ。ほら、この通り。傷ひとつないよ」
と言うと、メイは両手を広げて手のひらを見せた。

「良かった……ずっと心配してたんだよっ」
「私もだよ。出発前、シエルもひどい顔してたし」
「そうだよね。ご……」
ごめんと言いかけた口はすぐに手で塞いで、再び口を開けた。
「心配してくれてありがとう」

「どういたしまして。それより座りなよ。疲れてるでしょ?」
と言ったメイは、サイドテーブルにある湯気の出ているカップを手にした。

「うん」
メイの隣の椅子に腰を下ろすと、どっと出て来る極度きょくどの疲れ。

それにしても、出発前はあんなに震えていたメイが、驚くほどに落ち着いていて、一体何があったのかと不思議に思う。


「メイは大丈夫なの?」と聞くと、メイはキョトンとした顔をこちらに向けた。

そんな様子に「その、精神的に……」と続けると、なぜか笑みが飛んで来た。
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