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裂かれた大地
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戦地出発当日――
集合場所であるグランドへと向かう足取りは、酷く重かった。
まだ学園長が指定した時間にはまだ少し余裕があるにもかかわらず、すでに多くの人が集まっていることに驚いた。
ざっと見渡すと、早めに来ているのは女子が多く、グループで固まっている姿が目立つ。
きっと彼女たちも、私と同じで、一人でいるとどうにかなってしまいそうで早めに来たんだろうと思う。どうせ戦争からは逃げられないんだし。
「メイ」
私はメイの姿を見つけ、急いで駆け寄った。
「シエル……」
振り返ったメイの目は、とても不安げで少し腫れていた。
大丈夫?なんてそんな言葉はかけれない。
大丈夫なんかじゃないのは明らかだから。
だから私はそんな言葉の代わりに、痛みを分かち合うような気持ちで、そっとメイの手を握った。
メイの肩に自分の頭を置いて、淡い色の空を見上げた。
今日は快晴で、もうすぐ12月だというのに暖かく気温がいい。
今から戦地に行くなんて嘘みたいに静かで穏やかな空に、なんとも言えない気持ちが溢れて行く。
今朝、クリフオジサンにラブをお願いしてきた。
前もってそれは決まっていた事だけど、長期間ラブと離れるのは、不安でとても淋しい。
それにルイーゼ達とも……
「ねぇ、メイ。前から不思議だったんだけど」
「うん」
「こんなの出発前にする話題じゃないんだろうけど」
「うん」
「もし……例えば私が戦争で死んじゃったら、関わりのあった下級クラス生は変に思わないのかな?」
私の質問に、メイはとんでもない事を当たり前のように言ってのけた。
「多分、記憶操作するんでしょうね」
「えっ……!?」
「私たちなんて、この世に居なかった事にするんだよ。きっと……」
「……まさか、そんな事をするわけ……」
「するでしょ。戦闘員みたいな事をしたいなんて志願したわけでもないのに、全員強制的に戦地に行かすような組織なんだから」
「確かにそうだけど。で、でも……」
「だから前に書かしたんでしょ?
…………仲のいい友人、関わりのある友人の名前を…………」
その瞬間、ゾッとして声が出なくなった。
宣戦布告で隕石が落とされた少し後に、授業の一環として書かされたアンケート用紙。
メイに言われるまではなんとも思っていなかったけど、そう言われて思い返すと、あのアンケートにはそういう意図があったとしか思えない。
「離せ!俺はぜってー行かねぇ!!」
大きな声に目を向けると、講師たちに無理やり魔法で引きずられるようにグランドに入って来る男子生徒3人が見えた。
さっきから、管理事務員に強制的にグランドに連れて来られる生徒を何人も目にしていたけど、今回の3人は特に大暴れをしている。
よく見ると、そのうちの1人は私を襲ってきた主犯格の人物で――
その姿を目にした瞬間から酷く心臓が乱れ打ち始めた。
「……っ」
主犯格以外の3人はとっくに来ていた。
でも主犯格だけは来ないから、もしかしてと思っていたけど……生きてたんだ……
「はぁ……はぁ……」
駄目だ。
他の3人はまだ大丈夫だったのに、あの人だけは……
目にするだけで体の芯が震えてくる。
自分の足を割ってほくそ笑む主犯格の映像が、鮮明にフラッシュバックして頭を強く抱えた。
「シエル、大丈夫?顔が真っ青よ」
呼吸が乱れて来て、今度は胸を押さえると、メイは心配そうに覗き込んだ。
集合場所であるグランドへと向かう足取りは、酷く重かった。
まだ学園長が指定した時間にはまだ少し余裕があるにもかかわらず、すでに多くの人が集まっていることに驚いた。
ざっと見渡すと、早めに来ているのは女子が多く、グループで固まっている姿が目立つ。
きっと彼女たちも、私と同じで、一人でいるとどうにかなってしまいそうで早めに来たんだろうと思う。どうせ戦争からは逃げられないんだし。
「メイ」
私はメイの姿を見つけ、急いで駆け寄った。
「シエル……」
振り返ったメイの目は、とても不安げで少し腫れていた。
大丈夫?なんてそんな言葉はかけれない。
大丈夫なんかじゃないのは明らかだから。
だから私はそんな言葉の代わりに、痛みを分かち合うような気持ちで、そっとメイの手を握った。
メイの肩に自分の頭を置いて、淡い色の空を見上げた。
今日は快晴で、もうすぐ12月だというのに暖かく気温がいい。
今から戦地に行くなんて嘘みたいに静かで穏やかな空に、なんとも言えない気持ちが溢れて行く。
今朝、クリフオジサンにラブをお願いしてきた。
前もってそれは決まっていた事だけど、長期間ラブと離れるのは、不安でとても淋しい。
それにルイーゼ達とも……
「ねぇ、メイ。前から不思議だったんだけど」
「うん」
「こんなの出発前にする話題じゃないんだろうけど」
「うん」
「もし……例えば私が戦争で死んじゃったら、関わりのあった下級クラス生は変に思わないのかな?」
私の質問に、メイはとんでもない事を当たり前のように言ってのけた。
「多分、記憶操作するんでしょうね」
「えっ……!?」
「私たちなんて、この世に居なかった事にするんだよ。きっと……」
「……まさか、そんな事をするわけ……」
「するでしょ。戦闘員みたいな事をしたいなんて志願したわけでもないのに、全員強制的に戦地に行かすような組織なんだから」
「確かにそうだけど。で、でも……」
「だから前に書かしたんでしょ?
…………仲のいい友人、関わりのある友人の名前を…………」
その瞬間、ゾッとして声が出なくなった。
宣戦布告で隕石が落とされた少し後に、授業の一環として書かされたアンケート用紙。
メイに言われるまではなんとも思っていなかったけど、そう言われて思い返すと、あのアンケートにはそういう意図があったとしか思えない。
「離せ!俺はぜってー行かねぇ!!」
大きな声に目を向けると、講師たちに無理やり魔法で引きずられるようにグランドに入って来る男子生徒3人が見えた。
さっきから、管理事務員に強制的にグランドに連れて来られる生徒を何人も目にしていたけど、今回の3人は特に大暴れをしている。
よく見ると、そのうちの1人は私を襲ってきた主犯格の人物で――
その姿を目にした瞬間から酷く心臓が乱れ打ち始めた。
「……っ」
主犯格以外の3人はとっくに来ていた。
でも主犯格だけは来ないから、もしかしてと思っていたけど……生きてたんだ……
「はぁ……はぁ……」
駄目だ。
他の3人はまだ大丈夫だったのに、あの人だけは……
目にするだけで体の芯が震えてくる。
自分の足を割ってほくそ笑む主犯格の映像が、鮮明にフラッシュバックして頭を強く抱えた。
「シエル、大丈夫?顔が真っ青よ」
呼吸が乱れて来て、今度は胸を押さえると、メイは心配そうに覗き込んだ。
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