【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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私、死にたくない……

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「うちは、タチバナちゃんの所と違って一番人数の多いチームだからね。一人抜けた所で分からないんだよ」

でも、抜け出したなんて事がバレたら大変な事になるのでは?と思いながらも、余裕そうな様子に、エルバードの意外な一面を見た気がした。


「そうなんですね……」

せっせと雑草を抜くエルバードの横顔を見て、エルバードが少し痩せたように見えた。
人の事をなんて気にする余裕が無くて、同じクラスなのに全く気付かなかった。


参戦を言い渡される前後のエルバードの言動を思い出すと、エルバードが学園生徒の戦争参戦を知っていたのではないかと思えてならない。
ひょっとすると、彼自身が戦争経験者なのかもしれない。


そう思うと、昔に聞いた言葉に矛盾を感じてくる。

『なんで、か……。ワシは、卒業したいと思わないから、かな』
『どうして?』
『それは……タチバナちゃんがもう少し大きくなったら教えようかな』

10歳にも満たない頃の私とエルバードは、そんな話をした。

戦争の事を知っていたんだったら、すぐにでも卒業を目指すのが普通なのではないだろうか。またいつ勃発ぼっぱつするのか分からないのだから。


なのに……
「どうして……エルバードは卒業したいと思わないの?」

そう聞くと、小さな目を見開いてこちらを見た。


「……覚えていたんだね。その質問」
そして、その場でゆっくりと立ち上がると、悲しそうな笑みを浮かべた。

「ワシはここに入れられて、もうすぐ80年になるんだ。
入園してしばらくの間は、1年でも早く卒業しようと頑張っていたけど、才能がなくてね……
そうこうしてるうちに両親が他界して……一気に人生の目標を失ってしまった……」

小さな目を閉じると、遠い記憶を思い出すかのように空を見上げた。
その姿に、私はエルバードが泣いているのではないかと心配になり、胸が痛んだ。

「……外の世界に興味がないわけじゃない。でも、身寄りもなく知人もいない外の世界より、こっちの方がマシなんだと思っているんだよ。それが、ワシがずっとここにいる理由だよ」

エルバードの言葉には、諦めと寂しさがにじんでいるように思えた。

だから私は何も言えず、ただその言葉を受け止めるしかなかった。

エルバードの長い人生の中で抱えてきた苦悩が、胸の奥に重く響いた。



…………

……

授業終了のチャイムが鳴りひびき、エルバードと別れた私は、細い道を戻りながら頭を悩ませていた。

やっぱり、どう考えてもエルバードが不憫ふびんで仕方ない。

久しぶりにこの学園の方針について強い不満を抱き始める。
コントロールが利かず、自分の意志と関係なく誰かに魔法を使ってしまうことや、時々起こる魔力の暴走という懸念けねんが無くなれば、エルバードのような人や、毎月のように泣き叫びながら両親と引き離される子供を無くせるのかもしれない。

そう考えながら、シャツ越しにネックレスを掴んだ時、ふと思いついた。


……あ……れ?
待って?

もしかして、これで、助かるんじゃないの……?

私が付けていたような魔力を制御する魔道具があれば、両親と離れずに済むんじゃ……っ!!


いやっ、でも人のたましいを使うんだよね……?

それを、魔力がいつ現れるかも分からない子供たち全員に行きわたらせるなんて、そんなの本末転倒な気がする。結局誰かが犠牲になるしか無いのだから。

闇魔法の事は詳しくは知らないけど、魂以外で同じような効果って出せないものなんだろうか……


と考えてながら歩いていた時、突然なんの前触れもなく目の前がグルグルと回転しだした。


立っていられない程の平衡へいこう感覚にその場でひざをつくと、目の前が真っ暗になった。

固い地面に倒れこむ感覚が自分の肩や側頭部そくとうぶに伝わると、目も開けれない程の脱力感に襲われる。

すると、すぐ近くで「よし、すぐに運べ。早く!急げ!」という男性の声と、沢山の足音が聞こえた。
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