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私、死にたくない……
30
しおりを挟むでも、いくら待っても、その日はディオンの姿を目にすることはなかった。
あんなに毎日会いに来てくれていたのに今日は一体どうしたのだろう、と思いながら、夜は静かに更けていった。
戦争まであと1日――
目を開けると保健室の天井が映った。
どうしてここにいるのかと驚いた私は、ものの数秒で訓練中に倒れた事を思い出す。
そして、保険室の先生に『栄養不足と寝不足だ』と指摘されたことも。
残り少ない人生を、後悔のないように生きると決めたばかりなのに……。
心は前を向いている。
でも、体がそれについていかない。
その事にやるせない気持ちが込み上げてくる。
「ラブを迎えに行かないと……」と呟き、ゆっくりと体を起こす。
ぼーっとしながら仕切りの白いカーテンを開けると、左右にカーテンの壁が続く細い通路が現れた。
私の知ってる保健室の風景とは全く違う光景に、一瞬、目を点にすると保健室の先生が小走りしてきた。
「あら起きたの?大丈夫?」
「あ、はい……。それよりこれは……?」
と聞くと「ああー。みんな初めはビックリするよね。今の時期は倒れる人も多いから、ベッドをいっぱい入れたらギュウギュウになっちゃって……」と苦笑いを浮かべた。
「そうなんですね……」
当たり前だけど、精神的にも肉体的にも参っているのは私だけじゃない。そんな事を再確認したような気がした。
…………
……
保健室を後にした私は、まだ訓練中の時間だと知り、グランドに足を向けた。
でも、足が重い。
こういう時は、少し気分転換してから向かった方がいい。
そう思って足が向いたのは、お気に入りの花畑だった。
もうすぐ冬が訪れるなんて思わせない程の、赤やピンクなどの明るい花々が咲き誇っている。
最近、心の癒しを求めて、毎日のようにここに来てしまっている気がする。
こんな素敵な花畑を作ってくれたエルバードには本当に感謝しかない。
「あれ?タチバナちゃん」
そう呼ばれて見ると、花畑の中からぴょこっと顔を出す、土だらけのエルバードが居た。
「エルバード。あれ?授業はどうしたんですか?」
まだ授業中なのに……って、自分もだけど。
「抜け出して来たんだよ」
「えっ!?抜け出……大丈夫なんですか!?」
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