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私、死にたくない……
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しおりを挟むその女の子は、まるで日常のように私のお母さんの事をママと呼び、当たり前のように手を繋いだ。
そして続いて、パパと言って私のお父さんの手を取った。
何……?
何なに?えっ……?
両親は、私に向けていたような笑顔を、その子供に向けている。
その事に、胸がグっと絞られるように苦しくなって、早くこの場から逃げ出したい気持ちが湧き上がった。
なのに、そんな思いとは裏腹に、この光景があまりにもショックで、足は地面に張り付いていた。
逃げれないのなら、せめて今見た事を無かったことにしたい。
そんな叶わぬ願いと、止めようもない涙が溢れてくる。
私は、とっさに、緊張して言いたいことがうまく言えなかった時のために書いてきた手紙で顔を隠した。
「おい、行かないのか?って、何してんだよ」
「……いい……」
「は?いいって……なんでだよ。お前せっかく……」
両親とその子供は、私に背を向け、手を繋いだまま仲良く夕日に向かって小さくなっていく。
そんな様子に、足元の地面の色を塗り替えていく。
「うっ……」
「えっ……お前泣いてんのか?」
……痛い。
目が、凄く痛い。
両親に挟まれ、手を繋いで歩くその3人の姿は、今の私には耐えられるようなものではなかった。
私が心底したかった事。
それを当たり前のようにしているその小さな子供に、酷い嫉妬心を描いた。
その子は誰……?
私の両親なのに……
両親は、私を愛してくれていたんじゃなかったの?
なのに、どうしてあんなに幸せそうなの……?
どうして……あんな顔で笑っているの……?
私が居ないのに……
そんなんだと、まるで…………
私なんて居なくても良かったみたいだよ…………。
……ああ……
…………来なければ良かった…………
…………
……
「本当に、もう大丈夫か?」
「……うん」
またディオンの腕の中で泣いてしまった。
今度は前回と比べ物にならないほど酷《ひど》かった気がする。でも文句一つ言わずに、ずっと傍に居てくれた。
そんなディオンは、私の手をとって私の部屋まで瞬間移動をした。
出た時は夕焼け色だったこの部屋は、もう真っ暗だ。
今思うと、あの子供は私の妹なんだろうか。
一時的に預かっている子供に、パパやママなんて言わせないはずだし。
私の様子をジッと見て来ていたディオンは口を開ける。
「やっぱまだ無理そうだな。なんなら朝まで一緒にいてやろか」
普段なら『朝まで』なんて言葉に反応して何か言い返していただろうけど、今はそんな元気もない。
「おい」
と言って頬を手の甲でペチっとされると、それが引き金になったように再び涙が再び溢れてくる。
あんなに泣いたのに。
涙は際限を知らないんだろうか。
「うっ……」
涙が溢れてくる目元をこすっていると、ディオンがため息をついた。
すると、またふわりと抱きしめられた感覚がした。
次の瞬間、体に心地よい安らぎが広がり、一気に力が抜けた。
同時に強い眠気が襲ってきて、驚くほどに重くなった瞼を閉じると、すっと夢の中へと吸い込まれていった。
…………
……
「……んっ」
チチっと小鳥の声がして、瞼に朝の光が差し込む。
いつもの朝――
今日はなんだか暖かいな。
そして今日の枕は硬いような気が……
それに、なんだろう……さっきから凄く近くで何かが聞こえるこの音は。
すーすーって……
これは…………ラブ?
そう思ってパチっと目を開けると、目と鼻の先にディオンの寝顔があって、思わず「わぁっ!」と叫んで飛び起きた。
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