232 / 395
私、死にたくない……
8
しおりを挟む「意志が有るとか無いとかじゃねぇんだろ。そんな所気にするのなんてお前位だ。人間の大半は結果しか見ない」
「そんなわけ……」
否定的な言葉を口にした瞬間、前世で結果しか見ない社会を思い出して、それ以上は何も言えなくなった。
「まぁ、俺を怖がる奴、怯える奴、面白半分で近付いてくる奴は漏れなくろくでも無くて……『楽しい』なんて無縁な学園生活だった。
でも、学園生活も7歳で終わったから一瞬だったけどな」
と投げやりに言った言葉に、噂で聞いた歴代最短で卒業したのがディオンだと知って、再び驚きが隠せなくなる。
「そっからどうしたっけな……」
そう言うと、今度は腕を組んで唸り始める。
「もう……いいよ……十分聞いたよ」
と言って止めようとすると、「んだよ。これ位でいいのかよ。お前、俺の事知りてぇんだろ」と言われて、眉をひそめてから目を伏せた。
「そう……だけど……」
でも、こんな辛い過去を言わせたいわけじゃなかった……。
「なら大人しく聞いておけ。今じゃねぇと、こんな話、今後するかどうかも分かんねぇ」
やっぱり気まぐれだったんだ。
「卒業してからは……ああ、そうだ。確か10歳で大魔法使いという肩書が付いたんだっけな」
10歳で大魔法使い!?その事に再び口が閉まらなくなった。
「当時10歳だった俺は、肩書を隠すこともなく過ごしていた。そのせいで驚く程に人が寄って来た。
優しい言葉、俺に向ける笑顔、貢物の数々……。その裏にどんな思いや企みがあるのかなんて想像も出来ずに……。
その頃の俺は、驚く程に幼かった。
でも、そんな企みも日を追うごとに嫌というほど目にするようになって、ついには人間不信になりかけた。そんな時、俺はある奴と頻繁につるみ始めたんだ」
ディオンにこんな話をさせていいのだろうかと迷いながらも、結局耳を傾けてしまう自分が、なんだか情けなく感じた。
「そいつは珍しい奴で、大魔法使いである俺になんの要求もしてこなかった。
小国の王子で、何人もいる王子の中でずっと王座争いをしている最中だっていうのに。
そいつは話術に長けた奴で、一緒に居る時間は悪くなかった。だから自然とそいつの部屋に入り浸るようになった。初めて友達というのが出来たと思った」
珍しく沢山話をするディオンは、自分の事なのにどこか他人事のように淡々と話していた。
「交流を持ってから何年か経った頃、そいつは初めて俺にお願いをして来た。
聞けば大した内容じゃないからいいかと思って、気軽に返事をしたんだが……」
突然部屋に沈黙が流れ、ディオンの表情に注目をする。
「……あれが、間違いだった」
無表情だったディオンの顔に、おぞましさが滲み出たと思うと、突然片手で顔を覆った。
「な……何があったの……?」
「あいつは、大事な友人として国民に紹介したいと言い出して来たんだ。そして国民が集まる国の催しの日に、俺は奴と共に国民の前に出た」
「どうしてそれが間違いだったの?出ただけでしょ?」
「そう思うだろ?俺もそう思った。
でも、奴は俺が知らない間に俺の事を『私に仕える従士』として俺を紹介していたんだ」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる