【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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私、死にたくない……

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「意志が有るとか無いとかじゃねぇんだろ。そんな所気にするのなんてお前位だ。人間の大半は結果しか見ない」
「そんなわけ……」

否定的な言葉を口にした瞬間、前世で結果しか見ない社会を思い出して、それ以上は何も言えなくなった。


「まぁ、俺を怖がる奴、おびえる奴、面白半分で近付いてくる奴はれなくろくでも無くて……『楽しい』なんて無縁な学園生活だった。
でも、学園生活も7歳で終わったから一瞬だったけどな」
と投げやりに言った言葉に、うわさで聞いた歴代最短で卒業したのがディオンだと知って、再び驚きが隠せなくなる。


「そっからどうしたっけな……」
そう言うと、今度は腕を組んでうなり始める。

「もう……いいよ……十分聞いたよ」
と言って止めようとすると、「んだよ。これ位でいいのかよ。お前、俺の事知りてぇんだろ」と言われて、眉をひそめてから目を伏せた。

「そう……だけど……」
でも、こんな辛い過去を言わせたいわけじゃなかった……。

「なら大人しく聞いておけ。今じゃねぇと、こんな話、今後するかどうかも分かんねぇ」
やっぱり気まぐれだったんだ。

「卒業してからは……ああ、そうだ。確か10歳で大魔法使いという肩書が付いたんだっけな」
10歳で大魔法使い!?その事に再び口が閉まらなくなった。


「当時10歳だった俺は、肩書を隠すこともなく過ごしていた。そのせいで驚く程に人が寄って来た。
優しい言葉、俺に向ける笑顔、貢物みつぎものの数々……。その裏にどんな思いやたくらみがあるのかなんて想像も出来ずに……。
その頃の俺は、驚く程に幼かった。
でも、そんな企みも日を追うごとに嫌というほど目にするようになって、ついには人間不信になりかけた。そんな時、俺はある奴と頻繁につるみ始めたんだ」



ディオンにこんな話をさせていいのだろうかと迷いながらも、結局耳をかたむけてしまう自分が、なんだか情けなく感じた。

「そいつは珍しい奴で、大魔法使いである俺になんの要求もしてこなかった。
小国の王子で、何人もいる王子の中でずっと王座おうざ争いをしている最中だっていうのに。
そいつは話術にたけけた奴で、一緒に居る時間は悪くなかった。だから自然とそいつの部屋に入り浸るようになった。初めて友達というのが出来たと思った」

珍しく沢山たくさん話をするディオンは、自分の事なのにどこか他人事のように淡々たんたんと話していた。


「交流を持ってから何年か経った頃、そいつは初めて俺にお願いをして来た。
聞けば大した内容じゃないからいいかと思って、気軽に返事をしたんだが……」

突然とつぜん部屋に沈黙ちんもくが流れ、ディオンの表情に注目をする。

「……あれが、間違いだった」

無表情だったディオンの顔に、おぞましさがにじみ出たと思うと、突然片手で顔を覆った。

「な……何があったの……?」
「あいつは、大事な友人として国民に紹介したいと言い出して来たんだ。そして国民が集まる国のもよおしの日に、俺は奴と共に国民の前に出た」

「どうしてそれが間違いだったの?出ただけでしょ?」

「そう思うだろ?俺もそう思った。
でも、奴は俺が知らない間に俺の事を『私に仕える従士じゅうし』として俺を紹介していたんだ」
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