【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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私、死にたくない……

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そして、顔がされてるかのようにだんだん熱くなっていく。

「え?ど、ど、どうしてそうな……」
「だって、そんな泣きそうな程に俺の事知りてぇんだろ……って、あれ?開いた」
私の集中力が切れてしまったのか、ディオンが何かしたのかは分からないが、気づくとディオンの前の魔法壁に楕円形の穴が開いていた。

「あっ……」
「よっと……」
その穴を当たり前のようにくぐって部屋に足を踏み入れたディオンに、心の中で大きな悲鳴を上げる。

「ちょ、ちょっと……入って来ないでよっ」
しかもこんな変なタイミングで!

慌てて手の平をディオンに向けて新たな壁を作ろうとすると、目にも止まらぬ速さで移動したディオンに、手首を掴まれてしまう。
その事にドキっとして震えると、少し遅れて小さな風を肌で感じた。


「それ以上は使うな。一回自分の姿を見てみろ」
あきれたように言われた言葉に、頭の上にハテナマークを浮かべながら部屋にある姿見に視線を移す。

すると、手首を掴まれている自分の姿は、懐かしの黒い髪になっていた。


所々に金色が混じっているメッシュのような髪色に、何が起きたのかと思う。

「なんで、この姿に……」
「出力が多すぎなんだよ、馬鹿」
そう言うと、手首を離した手で私の鼻先をピンとはじいてきた。

「痛っ」
「コントロールりょくもままならねぇくせに、覚えたての防御壁魔法をこんなに沢山たくさん出しやがって」
腕を組んであごを上げて話すディオンを見ながら、涙目で鼻をおさえる。

「どうせ俺から逃げるなんて出来ねぇんだ。しばらくは、魔力を温存しとけ」
そう言われても、不満が湧き上がって口がとがる。

どうせもうすぐ死ぬかもしれないんだし、どうでもいいんじゃないか、と自暴自棄《じぼうじき》しそうな自分が顔を出したからだ。

「お前……魔力が枯渇こかつしたら、またラブが危険になるけどいいのか?」

そうだった……!
私が死んだら、魔力が無くなったら……ラブが居なくなるんだった!
そんなの、絶対に駄目っ。



ラブのつぶらな瞳を見て、ラブの為にもなんとしてでも生きなきゃいけないという気持ちが湧いて来た時、今更いまさらながら外が暗い事に気付いた。

光の壁があったせいで、ずっと昼のように明るかったこの部屋は、今は薄暗い。

「あれ……。ディオン、授業は?」
「あの後、授業なんて出来ると思うか?」
そう言われて一瞬で思い出す、皆の絶望の表情。


ディオンは大きなため息をつくとベッドをきしませ、お山座りをする私の横であぐらをかいて座った。
ディオンの顔を見上げると、外からの明かりをあわく浴びるディオンが、私の視線を逃がさないかのような目でじっと覗き込んで来た。


「で。さっきの質問だけど、……お前、俺の事好きなのか?」
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