204 / 367
4カ月遅れの誕生日
11
しおりを挟む少ない情報で、理解しようと頭を働かせていると、いきなり空で大きな爆発音が鳴り響いた。
「キャアッ!!」
咄嗟にディオンに思いっきりしがみつくと、なぜか周りでは歓声が上がっていて、一瞬で頭の上にハテナマークが浮かび上がる。
「馬鹿っ。ビビり過ぎだ。ただの花火だ」
パチクリと目を開けた私は呆れたように言われて、ディオンの胸元に顔を埋めたまま辺りに目をやる。
すると、空からキラキラとした星の粒が落ちていく様子が映った。
キラキラが落ち切る前に、地面からヒューと高い音が鳴らしながら筋のようなものが空に上がっていく。
そして、パッと空に大きな光の花を咲かせた。
「うわぁ……」
直後、さっき聞こえた爆発音と全く同じ音が私の鼓膜を揺らした。
私は、魔法会の後の打ち上げを除くと、まともに花火というのを見た事がない。
勤務先の窓からビルの影で花火の端が時々見えたとか、そういうものでしかない。
目の前では、何にも邪魔されず、色とりどりの花火が暗い夜空に美しく輝く。
それは、夕焼けの魔法会の花火とは違って、光と影のコントラストがとても美しい。
「綺麗……」
何度も、何度も、大きな花の形をした光がパッと開くと、肌を震わす程の音を鳴らしてゆっくりと落ちていく。
「凄い。これも魔法なんだよね」
とディオンを見上げて言うと、目と鼻の先にディオンの顔があって、一瞬で驚いた。近っ!
「おい。いつまでくっついてんだよ」
そう言われて、自分が今ディオンの腕にしがみついているという事を思い出して、飛ぶように離れた。
ドドドと酷い音を立てる心臓を掴み、頬《ほほ》が焼けるように熱くなる。
頬と胸に手を当てて、これはなんなのかと自問自答する。意識程度でこんな事になるだろうか。
「あれが魔法だなんて当たり前だろ?それ以外に何があんだよ。きっとあのあたりにでもいるんだろ」
ディオンはそう言うと、どこかを指さした。
「何が?」
「打ち上げの奴だよ」
「え?今誰かがやってるって事?」
「さっきから何当たり前の事言ってんだ。魔法使いがやらなくて、どうやって花火を作り出すんだよ。魔法会でもそうだろ」
理解出来ないけど、この世の中ではそういうものらしい。
「そうなんだ。よく分からないけど、こんな綺麗な花火を魔法で作れるなんて凄いよね。こんな素敵な景色が見れてよかった」
「大袈裟だな」
「大袈裟なんかじゃないよ。数か月遅れだけど、すっごく素敵な誕生日になったよ。ありがとう」
笑顔でそう答えると、ディオンは少し眉を上げ、口を尖らせて黙り込んだ。
「あ、終わったのかな。もっと見ていたいくらい本当に綺麗だったね。でも、そろそろ戻った方がいいよね」
と名残惜しい気持ちでベンチから立ち上がろうとすると、グッと手首を掴まれた。
振り向いた私は、「まだ座ってろ」と言われて無理やり座らされ、ディオンにキョトンとした顔を向けた。
「何?」
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる