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不安定な魔力
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しおりを挟む音のした方を見ると、ドングリのかけららしいものを吐き出して倒れているラブが映った。
「どうしたの!?ラブ!」
慌ててラブの身を起こすメイ。
でも、グッタリして力は入っていない様子だ。
こいつ、前から思っていたけど、明らかに生命力が弱まってるな。
……原因は多分……
「こいつ、いつから調子が悪いんだ?」
「シエルが目を覚まさなくなった時にはもう悪くて……。でも最初はシエルが心配だからだと思っていたんだけど……」
やっぱり。
「……保健室で診せても原因は分からないって……」
「まぁ、このままだと死ぬだろうな」
「え!?死んじゃうんですか!?」
「多分な」
死ぬと言うのは、本当は語弊がある。
でも、詳しく知らない奴に話すには、そう言った方が分かりやすいだろう。
召喚獣はもともと魔力で出来た生き物。
それが自然に帰るだけだ。
魔法で、熊野郎が吐いたものを片付けながらそんな事を考えていると、メイは泣きそうな顔でラブを抱きしめる。
「どうしよう……。目を覚ました時、ラブが死んだなんて聞いたら……シエルがどれだけ悲しむか……」
震える声で言ったメイの言葉が、俺の胸に刺さった。
『シエルがどれだけ悲しむか……』
くっ、まただ……。
目覚めた時、熊野郎を失ったと知ったシエルの顔を想像するだけで、胸の奥が搾り取られるような痛みを感じる。
最近思う。
俺は、シエルに呪われてるんじゃないかと。
そう仮定すると、こんな訳の分からない感情の乱れも意外とすんなりと納得できる。
転校生と盛っていたシエルを見た時の苛立ちや、泣きはらしたシエルをここに運んで来た時の自分の行動さえも……
こんな呪いを掛けた奴を見つけたら――
最高級の呪いをお見舞いしてやる!
呪いかけた奴の思惑通りに動くのは癪に障るが、今までの事を思い返すと従わないって事にはいかねぇんだろう。
「ラブがこんな調子なのは……多分、魔力が安定しないからだ」
「魔力が、安定しない?」
「ああ。普通、魔力は心臓あたりを中心に落ち着いた状態でとどまっているものだ。なのに今のシエルは、自分の体の中に魔力を抑え込む力もコントロールも利いていない状態で、渦巻いている。まるで本格的な嵐状態だ」
メイは、俺の言葉にゴクリと喉を鳴らす。
「ラブはシエルの魔力で生まれた。だから主人の不安定な魔力に当てられると体がおかしくなるのは当たり前だ」
俺は面倒くさいと思いながら、ため息をついて続ける。
「だからこのままだと、死ぬ可能性が高い」
「どうしよう……」
「……が、そいつをシエルから離せば死にはしないと思う」
「え!?離す……!?」
「ああ」
「ってどれくらいですか?」
「明確な距離とかは分からない。でも出来る限り離した方がいい。学園内の建物で言ったら……」
顎に手を添えて園内図を思い浮かべる。
「……男子寮か?」
俺がポツリと呟いた言葉を聞いたメイは、
「男子寮!わ、分かりました!ありがとうございます!すぐに連れて行きます!」
と言って、飛ぶようにこの部屋から出て行った。
あんなに酷い状態で、学園内で大丈夫だろうか。
シエルがどれだけ悲しむか……
……か…………
うなだれてからそっと自分の前髪をかきあげ、ため息をついた時、シエルの口が微かに動いた気がして、慌てて立ち上がった。
「シ、シエル!?」
するとその時、薄く口が開いて消えそうな声が鼓膜に飛び込んで来た。
「ママ…………パ……パ……」
突然シエルの目元から滲み出して来た涙が一瞬で水たまりを作って、溢れた涙がスッと線を描くように横に流れた。
その瞬間、俺の中である推測が浮かんだ。
「目を覚まさねぇのって、……まさか……」
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