【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
186 / 395
不安定な魔力

7

しおりを挟む

音のした方を見ると、ドングリのかけららしいものを吐き出して倒れているラブが映った。

「どうしたの!?ラブ!」
慌ててラブの身を起こすメイ。
でも、グッタリして力は入っていない様子だ。


こいつ、前から思っていたけど、明らかに生命力が弱まってるな。
……原因は多分……

「こいつ、いつから調子が悪いんだ?」
「シエルが目を覚まさなくなった時にはもう悪くて……。でも最初はシエルが心配だからだと思っていたんだけど……」

やっぱり。

「……保健室で診せても原因は分からないって……」

「まぁ、このままだと死ぬだろうな」
「え!?死んじゃうんですか!?」
「多分な」

死ぬと言うのは、本当は語弊がある。
でも、詳しく知らない奴に話すには、そう言った方が分かりやすいだろう。

召喚獣はもともと魔力で出来た生き物。
それが自然に帰るだけだ。

魔法で、熊野郎が吐いたものを片付けながらそんな事を考えていると、メイは泣きそうな顔でラブを抱きしめる。

「どうしよう……。目を覚ました時、ラブが死んだなんて聞いたら……シエルがどれだけ悲しむか……」
震える声で言ったメイの言葉が、俺の胸に刺さった。


『シエルがどれだけ悲しむか……』



くっ、まただ……。

目覚めた時、熊野郎を失ったと知ったシエルの顔を想像するだけで、胸の奥がしぼり取られるような痛みを感じる。

最近思う。
俺は、んじゃないかと。

そう仮定すると、こんな訳の分からない感情の乱れも意外とすんなりと納得できる。
転校生と盛っていたシエルを見た時の苛立いらだちや、泣きはらしたシエルをここに運んで来た時の自分の行動さえも……


こんな呪いを掛けた奴を見つけたら――

最高級の呪いをお見舞いしてやる!


呪いかけた奴の思惑おもわく通りに動くのはしゃくさわるが、今までの事を思い返すと従わないって事にはいかねぇんだろう。

「ラブがこんな調子なのは……多分、魔力が安定しないからだ」
「魔力が、安定しない?」

「ああ。普通、魔力は心臓あたりを中心に落ち着いた状態でとどまっているものだ。なのに今のシエルは、自分の体の中に魔力を抑え込む力もコントロールも利いていない状態で、渦巻うずまいている。まるで本格的な嵐状態だ」
メイは、俺の言葉にゴクリとのどを鳴らす。

「ラブはシエルの魔力で生まれた。だから主人の不安定な魔力に当てられると体がおかしくなるのは当たり前だ」
俺は面倒くさいと思いながら、ため息をついて続ける。

「だからこのままだと、死ぬ可能性が高い」
「どうしよう……」
「……が、そいつをシエルから離せば死にはしないと思う」
「え!?離す……!?」
「ああ」
「ってどれくらいですか?」

「明確な距離とかは分からない。でも出来る限り離した方がいい。学園内の建物で言ったら……」
あごに手を添えて園内図を思い浮かべる。

「……男子寮か?」


俺がポツリと呟いた言葉を聞いたメイは、
「男子寮!わ、分かりました!ありがとうございます!すぐに連れて行きます!」
と言って、飛ぶようにこの部屋から出て行った。



あんなにひどい状態で、学園内で大丈夫だろうか。


シエルがどれだけ悲しむか……

……か…………



うなだれてからそっと自分の前髪をかきあげ、ため息をついた時、シエルの口がかすかに動いた気がして、慌てて立ち上がった。

「シ、シエル!?」

するとその時、薄く口が開いて消えそうな声が鼓膜に飛び込んで来た。

「ママ…………パ……パ……」

突然シエルの目元からにじみ出して来た涙が一瞬で水たまりを作って、溢れた涙がスッと線を描くように横に流れた。

その瞬間、俺の中である推測が浮かんだ。

「目を覚まさねぇのって、……まさか……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...