【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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不安定な魔力

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でも、どう見ても今は青い目をしていて、一度目をこすってみたけど何も変わらない。

「なんで会ったばかりのあなたにそんな事言われなきゃならないの!?もう終電出ちゃうから帰らせて下さい!」

「結婚しないって言わないんだったら、一生帰さない」
「なんで!?あなた、前から一体何なんですか!?」
こんなに付きまとわれるくらいなら、助けなければ良かった。

そう言うと、彼は何か言いたげに口を開けてから苦しげな顔をして呟いた。

「俺が……どういう思いで……っ!!」
そしてもう一度大理石の壁を殴った。
すごい音がして、その手を横目で見ると、こぶしから血がにじみ出しているのが見えた。

突然、ガクッと項垂うなだれるようにうつむいた彼は、とても長いため息を吐いた。

そしてすっと顔が持ち上がったと思うと、目と鼻の先にある切れ長の目が、私を貫くように見た。


「結婚なんてしてみろ。絶対お前をぶっ殺してやるからな」
殺意が込められたような目をした名も知らない彼は、そう告げるとこの場を去って行った。

私は、すぐにその場で崩れ落ちた。

心臓が驚くほどバクバクと鳴って、暫く歩けそうもない。

「一体……なんだったの?」

この後、私が終電も逃したのはいうまでもない。



そして、この数日後の結婚式当日――

私は髪の長い人物に殺されてしまった。


…………

……

夕日色に染まるシエルの部屋――


ずっと目を閉じたまま動かないシエルを見下ろす。

「いつまで寝てんだよ」
前髪をサラりとすくうと、近付いてくる魔力と足音を感じてシエルから手を放した。

すぐにドアが開くと、浮かない顔がのぞいた。

こいつは、シエルの親友のメイという女。

メイは、ドア側からチラっとシエルを見ると口を開けた。
「カミヅキ講師。シエル、まだ目を覚まさしてないですよね?」


毎日顔を合わすせいで、最初の方は交わしていた形式的な挨拶あいさつも、いつの間にか割愛かつあいするようになった。

「まだだ」

俺はベッド横に出していた、自分用のロッキングチェアに腰をかけ、きしむ音を鳴らす。


「やっぱり……おかしいよ……。もう、3か月も経ってるんだよ?」
メイは眉を下げ、今にも泣きそうな目をしてこの部屋に足を踏み入れる。

「……2回も魔力の覚醒をするなんて、理論上無いって学園長も言ってた。なのに、どうしてシエルだけ……」

2回目の覚醒。そりゃ理論上おかしいだろ。
俺も聞いた事がないし、そんなのはこの世に無いと思う。

でも、シエルは何もおかしくない。

シエルは……
一度たりとも魔力の覚醒なんて、してなかったんだから。
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