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進級試験前
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しおりを挟む自分の胸を掴まれているという信じられない状況に、理解が出来ずに固まった。
「理解力が足りないお前に教えてやる……警戒心が、なんで必要かってのを」
ディオンは、言葉では言い表せないような表情をしていた。
よく見ると、瞳の奥に葛藤が見えた気がした。
その瞬間から、怒っているようにも、苦しそうにも見えて来て、逆に心配になってくる。
もしかして……
ディオンは、本当はこんな事したくてしてる訳じゃないんじゃ……
「こんな事……しなくていいよ」
胸を掴む手を止めようと、ディオンの手首を掴む。
「は?」
「ディオンは……こんな事したいわけじゃないでしょ?」
「何言って……」
「女の人に興味ないの知ってるし。仕事外だと、すっごく綺麗な人が相手でも、いつも鬱陶しそうだし……」
「お前、まさか俺が性的無関心なアセクシャルとでも思っているのか?」
その目はとても冷たくて、心がヒヤッとした。
「そ、そうじゃないけど……でも、ディオンは口が悪いだけで本当は優しい人だと思うし……」
その時、イラついた様子で「うぜぇ」と言って、強引に口を塞いで来た。
「んん!?」
瞬時にさっきの出来事を思い出して唇を強く閉じると、今度は親指を突っ込まれて無理やりこじ開けられる。
「はぇ……」
強引に開かれた唇の隙間から、また温かで肉厚な舌が侵入してきて、私の体温を瞬時に上げていく。
その時、口内に全部持っていかれていた意識が胸元に移動した。
いろんな方向に動き始める自分の胸に、揉みしだかれていると気付いた瞬間、ディオンを止める手に更に力が入った。
「んんっ!」
本当にこれが警戒心の無さというのを知る為に必要な行動なの?
もしそうなら……教えてくれなくていいっ。
「んん――っ!」
そう伝えたいけど、私の口は塞がれたまま。
抵抗すればするほど、ディオンの目に映る戸惑いの色が濃くなって行くように見える。
ディオンのこの目をさせているのが苦しい……
……酷く苦し気で……。
悲し気で……
こんな顔、させたくないのに……
手の力を抜いてゆっくり目を閉じると、突然唇が離れて行った。
……なんで、突然止まったんだろう。
そう思ってそっと瞼を開けると、ディオンの顔が酷く歪んでいく様子が映った。
「はぁー。またかよ」
その言葉の意味が分からずキョトンとしてしまう。
「おい」
私の頬が、長い指の背でペチっと叩かれる。
「泣けばいいって思ってんのかよ」
その言葉で、自分が泣いているんだと知った。
私は、泣いているのかを確かめることなくディオンを見続けた。
だってディオンが、今にも泣きそうに見えたから――
その表情に胸が締め付けられるほどの苦しさを覚え、どうしようもなく溢れ上がった気持ちに釣られてディオンに抱きついてしまった。
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