【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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魔法会

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凄く胸が締め付けられるし、喉が焼けるように苦しい。

でも、騙されたら駄目だ。
本当は何か企んでるに決まってる。
心許して話したら、その内容を皆にバラすとか、私の弱み探って脅すとか。

……ううん。
ディオンはそんな回りくどい事をしないと思う……。

じゃあ、なんで?


私は泣き出しそうになって、下唇を噛んだあと、無理やり作り笑いをした。

「あは……何、それ……。ディオン、なんか変なものでも食べたの?」

1秒でも早くこの空気を変えたくて、必死で誤魔化そうとした。
でも、ディオンは怒るわけでもなく、真面目な返事を返してくる。

「俺は、お前と同じで何も食ってねぇよ」
なんでそんなこと知ってるの?

どうせなら、さっきみたいに怒ってくれた方が良かった。
そしたら、もう少し誤魔化せたと思うのに……

「あっ……」

自分でも思い通りにならない程に、大きく眉が下がる。

「そっか、そう……な……ん……」


こんな奴の前で泣くつもりなんて微塵みじんも無いのに、自分の思い通りにならない涙が、ついにほほに伝った。


「あ……。どうしよう……私……泣いちゃ、った……?」

頬を伝う感覚に慌てて手の甲で涙をぬぐうけど、拭った以上に涙が溢れて来る。

「なんで……なんで涙が止まらな……」
「別に泣きたきゃ気の済むまで泣けばいいだろ。見られたくねぇんだったら見ねぇよ」

苦しい……。

ディオンに優しい言葉を言われると、息が詰まりそうになるくらいに……
胸がギュっとなる。

これは、何?


「……いいの?そんな事言ったら……本当に朝まで泣ぐがも……じんな…………」
「別にいいし」
突然、ディオンにクルっと向き合うように体をひっくり返されて驚く。

ディオンが見せる優し気な目がにじむ視界に見えて、慌てて顔を背けて、手で日差しを作った。

「ちょっ……!見られたくないなら……見ない、っで……言っだのに……酷いっ」
「見るななんて言ってないだろうが」
「あ、そうだった……。じゃあ……見な‟い、で……」

泣きながらそう言うと、そのまま私の後頭部と腰に手を回して来て、今度はそのまま向き合う形でギュッと抱きしめられた。

その事に、私は驚き目を見開いた。

頬に当たる男性もののコートからディオンの香りがふわりと漂う。

「……え……、こ、これは……?」


ディオンの胸板に顔を埋める形となった私は、真っ赤になって混乱する。

「これで見えないだろ」
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