【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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魔法会

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「準備出来たって。私もドキドキしてきた」
「シエルお姉ちゃん、頑張って!」
「画面見て応援してるから!」
気付けばクラスメイトに囲まれていた。

「うん!優勝目指して頑張ってくるね!」
と笑顔で応え、背を向けた瞬間、書庫での出来事が脳裏によみがえり、胸の奥が重く沈んだ。

その暗い気持ちを振り払うかのように強く頭を振り、周囲の声援に背中を押されるように力強く足を踏み出した。

広大なグランドはまるで甲子園球場よりも広く感じられ、目指す場所は遠くに見えた。
それでも一歩一歩前進し、声援の響きに励まされながら、前を見据えて歩みを進める。


最終戦は毎回同じ内容だ。
しかも、ただの石をお題の物に変えるというごく単純な戦いだ。
でも、毎年これが結構くせ者で予想外のお題が出され、予想外の結果を生む出す事がある。

だから、この最終戦はある意味簡単そうで……とても難しいと言われている。


指定の場所に魔法で円を描くように並べられた台の手前に立つと、拳よりも大きく、土までついた石が台の上にポンと現れた。
その瞬間スピーカーから大きな声が飛んで来た。


「それではさっそく、最終戦を始めたいと思います。最終戦は、毎年恒例の石をお題の物に変える対決になります。

今年のお題は――!!
『宝石』です!!」

その言葉に、グランド全体がザワつく。

「石を宝石に変えてください。種類は問いません。より光り輝く宝石に変えれた人が勝ちです。同レベルの争いになった場合は宝石審査協会の会長が審査を行います。また、作り直しは出来ません。1回こっきりの勝負になります」

その時、遠くにある大きなテントの下にいた、園長と並んで座るお爺さんのような人が立ち上がって静かに頭を下げた。

「では、みなさん準備はいいですか?」


ふと自分の向かい側の女子を見ると、手首にはSクラスであるオーロラカラーのハンデバンドが見えた。
ニコッと微笑まれて、自分と違って酷く堂々として余裕まで感じて、羨ましく思ってしまった。

チラっとFクラスの待機席を見る。
すると両手の先をアライグマのようにすり合わせ拝むように応援するクラスメイトや、両頬に手を添えて『頑張って~』と叫ぶクラスメイトが映る。
そしてアランやルイーゼも。

優勝したクラスの報酬はプレミアムメニューだけじゃない。
短いけど自分たちの姿を全国放送で流してもらえる。
これは、お父さんやお母さんに成長した姿を見せる、唯一の方法だ。

両親に、今の姿を見せたい。
そう思っているのは、きっとクラスメイトも同じはず。

皆の為にも、自分の為にも、なんとしても勝ちたい。

そして皆と笑って学食でプレミアムメニューを食べたい!

皆の思い、頑張りを、絶対無駄にしたくない!



絶対に――優勝する。


気付けばさっきまで感じていた体の震えは、不思議と無くなっていた。
それどころか、寝不足だし書庫のショックもあるはずなのに、頭の中が驚く程にクリアになっていた。

「よーい、始め!」
パーンとピストルが鳴って、みな一斉いっせいに目の前の石に手をかざす。
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