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魔法会

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…………

……


「……い。

……おい……

おい!」

ぼんやりした視界に映るのは、信じられない事に、心配そうな顔をしたディオン。

次第とハッキリとして来て、私は一瞬で我に返った。

「大丈夫か?ひでぇ顔だぞ」
「……え……?」
あれ?私、ショックで固まってた……?

頭に手を置いて思い出そうとすると、「何読んでんだよ」と言われて私が手にしていた本を取り上げて来た。

「あっ」
そして、ディオンは本の表紙を見て眉をしかめた。

「平行時空・超空間の思想と移動の実現性?」
「み、見ないで!」
慌てて本に手を伸ばすと、ヒョイっと手を上げられる。

「なんだよ。書名を読んでるだけだろ」
「か、返して!」
と叫びながら席を立つと、突然、頭がグラっとなって足元がフラついた。

「あっ……」
「おい!」


確実に倒れると思ったほどにグラついていた体は、背中にトンと何かが当たった瞬間、倒れるような感覚がピタリと消えた。

驚いて、重く感じるまぶたをゆっくり開けると、逆光でステンドグラスの光を浴びたディオンの心配そうな顔が、視界いっぱいに映った。

その瞬間、これは私が作り出した幻なんじゃないかって思った。
だって、ディオンがこんな顔をするわけないから。


「何やってんだよ。お前って本当に世話が焼けるよな」
溜めまじりに言うディオンはどこか悩まし気で、それでも声がいつもより優しく感じた。
グワングワンと揺れそうな頭で、私はまだ美化された幻想のディオンを見ているのではと思った。

ディオンは私の頭に自分の大きな手をかざす。
「あー酷い貧血だな。あと寝不足か?さっきまではそんなんじゃなかっただろ?何があったんだ」
その言葉になんと返していいのか考えられない私は、回る目が気持ち悪くてそっとまぶたを閉じた。

「駄目か」
そう呟くと、ディオンは再び私を椅子に座らせた。

「とりあえずこの後の魔法会は棄権きけんだな。あとで俺から学園長に言っ……」
そう言われてすぐに目を開いた。

「だ、だめ!そんなの!こんな貧血くらい大丈夫だか……」
慌てて再び立ち上がろうとすると、思いっきりフラついて頭をおさた。
するとグッと手を掴まれ、抱きかかえられる。

「馬鹿かよ。何してんだよ。座っとけ」


「だって、ディオンがそんな事いうから!私、棄権きけんなんてしたくない!」
「何をそんな必死になってんだよ、魔法会なんてお遊びだろ?別にお前が居なくなっても何も変わんねぇよ」
「そんな事ないもん!私、アンカーなんだよ!?」
「だからってなんだよ。お前が居なかったら居なかったらで、どうせ誰かが代わりに出るだけだ」
「そんな無責任な事出来ないよ!いいから離して!」
そう言って、再び掴まれた手を払い除けようとするけど叶わない。

「アンカーだかなんだか知らねぇけど、どうせ抜けてきたあの時点でFクラスは下から数えた方が早かった。だからそんなヘロヘロのお前が行ったところで勝ち目なんてねぇんだよ」

「わ……分からないじゃん。今年はアランがいるし!」
「は?」
イラっとした様子のディオンは、突然私の顔に手を伸ばしてくる。
そして、私のほほをガシっと掴んでヒヨコくちにした。

「ひゅ……!?」
「お前の口って、心底うざい!」
「ひぇっ!?」

今、酷い貧血だと言われて抱きかかえられているはずなのに、なんで私はこんなにも頬を強く掴まれているんでしょうか。
ひぃはいんでしゅへほ痛いんですけど……」
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