【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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魔法会

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「あれ?用事は終わったの?」
「ああ」

そんな私とディオンの会話に、メイが聞く。
「えっ、シエルどこ行くの?」

「あ、えっと……」
前もって用意してなかった質問の返事に、慌てふためくと、首を傾げたディオンが親指を返して言った。
「魔法会の裏の手伝いでちょっと借りていくけど、いいか?」

「は、はひ」
メイの声はひどく裏返っている。

「シエル、手伝いするならラブ見とくよ?」
ラブを抱きかかえて立ち上がった私にメイが言う。

「え?いいの?」
「いいよ。ラブ可愛いし。私の癒しだし」
「ありがとう」

…………

……

ディオンに会うのは、あのアランと初顔合わせをした日ぶりだ。

最近怖さを感じなかったのに、あの日のディオンを思い出すとどうしても警戒心が湧いてしまう。
それに、もう掘り返さない方がいいはずなのに、なんでアランにあんな事をしたのかと聞きたくなってしまう。今後の事もあるし。

そんな事を考えている私は、酷い息切れがを起こしている。
なぜかというと……


「ちょっと!は、早いんだけど!」
私の言葉に凄く前を歩いていたディオンが「あ?」とポケットに手を突っ込んだまま振り返る。

「お前が遅いんだろ?さっさと来いよ」
あごをグイっと上げるディオンに、すぐさま言い返す。

「ディオンが早いんだよ!」
グランドから離れる時は、二人で抜け出す所を人に見られるとよくないからだと思っていたけど……もうずっと誰もいないのに、変わらずこのスピードのまま。

「いいや、お前が遅い」
「ディオンだよ!」
ムッと口をパンパンに膨らませると、ディオンは大きなため息をつく。
そして舌打ちをしてから面倒くさそうに戻って来た。

文句でも言いたげなディオンは目の前で立ち止まる。
そして何故か少し屈んだと思うと、スンと匂いを嗅いで来た。

何してんの、と思った時、私はとんでもない事を言われる。

「さっきから思ってたけど、なんか……お前くせぇな」
呟くように言った言葉に大きなショックを受けた私は、慌てて自分のローブのすそを掴んで匂いを嗅いだ。
「え!?くさい!?嘘っ」

でもよく分からない。
恥ずかしくなって、慌ててローブを脱いでシャツ姿になって言い訳をする。
「おかしいな、ローブも全部洗濯したところなのに……って、まさか私自身が臭い!?」
人に言われた事がなかっただけで、実は凄い体臭だった!?

ショックで、両手で両頬りょうほほが縦長になるくらいに強く挟むと、私が手にしているローブをディオンは容赦なくバンバンと叩いてきた。

「ちげぇよ。あのクソ野郎の匂いだ」
いたっ!痛いよ!腕まで叩いてるから!っていうか、クソ野郎って誰よ」
その時、どこからかふわりと柔らかな花の良い香りがして漂って来た。
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