【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

文字の大きさ
上 下
84 / 395
休日

3

しおりを挟む

「違うよ。シエル。僕が臆病おくびょうなだけだよ」
「臆……病?なんでそんな事を言うんですか?ローレンはちっとも臆病なんかじゃないのに」

ローレンは人目を気にせず、誰にでも優しく接する心の強く温かい人だ。臆病なんて、彼には正反対の言葉だと思える。

眉を寄せ言った私の言葉に、目を見開いたローレンは、再び笑顔に戻る。

「シエルは将来したい仕事とかってある?」
話が急に変わったので、少し戸惑いを感じた。
もしかして、話を逸らされたのかもしれない。

「いえ、ゆくゆくは考えないとって思っているんですけど、私はいつここを出れるかも分からないので……。ローレンは?」

ローレンはBクラス。
しかも100年に1人の逸材《いつざい》と言われている。
だから1回でも飛び級をしたら後1年チョットで卒業になる。
いつ卒業出来るのか目星もつかない私とは全然違う。

でも、ローレンは試験日当日に体調を崩す事が多いみたいで、知識や能力は十分なのに未だにBクラスのままだ。

学園も、後日特別に試験を受けさせてあげてくれればいいのに、って思うけど……あの堅物学園長だからな……。

「僕はここを卒業したら、ここの講師をしようと思ってるんだ」


一般的に、この魔法学園を卒業した生徒は就職先を選びたい放題だ。
しかも、どれも一般人では有り得ないくらいの好待遇を受けれると聞いた。

その中でも講師の仕事は中ので、特別講師だけはトップクラスの待遇らしい。
しかも自由に学園外に出入り出来ない制限付き。
せっかく外の世界に行けるようになったのに、わざわざそんな職を選ぼうとするなんて……


「正直、今でもスカウトを受けているし、両親も卒業したら家業を継いで欲しいみたいなんだけど……
シエルちゃんは僕が幼い頃、ここから逃げようとした話を聞いた事があるかな?」
その質問にドキッとしてしまう。

「はい……。有名だったので結構前に……」
申し訳ない気持ちで俯くと、困ったように微笑むローレン。

「だよね。いいんだよ。あの時は学園全体でうわさになってたと思うし」
不可抗力とは言え、あんまり人に知られたくない話だろうから触れてこなかったけど……


「僕は両親にとてもとても大事に育てられていたんだ。僕は両親が……大好きだった。今でもだけど。
だから5歳の検診後、すぐに両親と引き離されて、訳が分からないままいきなりこんな知らない所に連れてこられて……」

初めてこんな話をするローレンは、口こそ笑っているが、今にも泣きそうに見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...