上 下
83 / 367
休日

2

しおりを挟む

ローレンの実家は名家だもんね。

きっと、学園の個人口座にも沢山送金して貰っているんだろう。
学園に入りたての頃、場違いなのに間違って一度だけ足を踏み入れてしまった、あの高級なお店で普段お買い物をしているんだろうな。

それにしても、今日こんないいレストランに来ると知っていたら、前に口座のお金を全部はたいて買った、あの白いワンピースを着てきたのに……。

普段から釣り合っていないけど、今は普段以上に不釣り合いだ。

『気合が入ってると思われたら嫌だから普通の恰好かっこうにしよう』と思ってこの服を選んだ数時間前の自分をしかりたい。


風がそよいで木々がざわめくと、ローレンの優しく緩む視線が絡む。
目が合うと微笑まれて、意味もなく一瞬ドキっとする。


「お待たせしました」
私たちの間を、茶葉がふわりと舞うガラスポットと白いティーカップが遮った。
すぐに風に乗って茶葉の芳醇な香りが漂《ただよ》ってくる。

「もう蒸らし時間は終わっておりますので、すぐお飲みになれます」
「ありがとう」
慣れたようにローレンが店員にそう言うと、私の前にあるポットに手を伸ばした。

「えっ」
「入れてあげる」
「あ、りがとうございます」
いいのかな?と思っている間に、私の目の前にあるティーカップは薄茶色の紅茶で満たされていく。

紅茶を入れるローレンの姿はとても絵になっていて、思わず見とれそうだ。

注ぎ終えたローレンはゆっくりと瞼《まぶた》を持ち上げ、色素の薄い大きな瞳と目が私を見た。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを手に取り、紅茶を一口含む。次の瞬間、驚きが走った。
まろやかな味わいが舌の上で広がり、今まで体験したことのない深い香りに、心まで温まるような美味しさが広がっていく。

口元に手を当て、あまりのおいしさに驚いていると、ローレンはニッコリと微笑んだ。

「休日にシエルちゃんとこんな風に過ごせるなんて、夢みたいだ」
「えっ?そんなおおげさですよ」

「本当はずっと前からこうしたいって思っていたんだ。でも、なかなか勇気が出なくて……」
そう言うとローレンの眉が静かに下がった。

「え?なんで!?私、断りそうな態度していますか?」
自分の行動を思い返してみるけど、ローレンにはずっと好意があるし、思い当たる節が無くて首を傾げた。

すると、ふっと笑い声が聞こえる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...