【講談社大賞受賞作品】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?

花澄そう

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魔力の覚醒

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色とりどりの花が咲き誇る、学園の園庭――

「あんな奴が特別講師だったなんて世も末だねぇ。ねぇ?ラブ」

種から魔法で芽を出させる小テストで順番待ちをしている私は、召喚した熊のラブに話しかける。

「がおー」
なんで名前をラブにしたかと言うと、背中にハートっぽい形があったからだ。単純。

「特別講師は魔法使いの中でも本当に凄い人しかなれない職らしいのに……聞いてる?ラブ」
つぶらな瞳のラブは突然横を向いたと思うと、すぐ隣で声がした。


「ねぇねぇ、ラブにエサはもうあげたの?」
そう話かけてくるのは、何歳も年下のクラスメイト。
「まだだよ」

「やった!実はね、ドングリが好きって聞いてグランドに落ちてるの沢山拾って来たんだけど、あげてもいい?」
「いいよ~。ありがとう」

すぐに近くの芝生にラブを降ろすと、クラスメイトはズボンのポケットに手をつっこんで山のようなどんぐりを出してきた。

すぐに大好物のドングリをリスみたいに頬張るラブに、周りのクラスメイトたちがどんどん集まってくる。


あの後知ったけど、生き物を召喚出来るのはとても珍しく、凄い事だったらしい。

しかもFクラスの人間が生き物を召喚をしてしまうなんて前代未聞ぜんだいみもんの事例だったらしく、あのディオンとか言う奴が助言してくれなかったら、誰も私が召喚したって信じてくれない空気だった。

学園長も教頭先生も、ディオンとかいう奴には逆らえなくて、奴が言う事は全て正しいという雰囲気だった。

特別講師は魔法にけていて、魔法使いの中でもほんの一人握りの人しかなれないって聞いたけど、あの時の様子を思い出すと本当に凄い人なんだろうなって思った。
思うとなんだか複雑な気分だ。

「かわい~い」
「いいなぁ~私もラブちゃんみたいなペットが欲しい~」
「私も~」

沢山のクラスメイトに囲まれ始めて、ついにFクラス講師の声が割って入って来た。



「はい!そこ!召喚ペットが珍しいのは分かりますが、静かに待っててください!小テスト中なのに気が散ります!」
講師が目を吊り上げ言うと、ザワついていた辺りが一瞬で静まり返った。

「そしてタチバナさん、次あなたの番ですよ!ちゃんと並んで!」
そう言われて見ると、次が自分の番のようだった。

「あ!すみません!」
講師の言葉に焦って立ち上がると、足元から声がする。

「ラブは僕が見てるから行って来て。僕もう小テスト終わったし」
とドングリを用意してくれたクラスメイトが言ってくれた。

「ありがとう」



…………

……

「タチバナさん。召喚ペットが出来てから浮ついているんじゃなくて?
たまたま奇跡的に召喚が成功したからって調子に乗らない事ね」
ステッキを持った講師は、腕を組んで大きな胸を揺らす。

「えっ……調子に乗ってなんて……」
「念のため、おさらいするわ」
講師は地面にある、土の入った植木鉢うえきばちをステッキで指した。

「この鉢の中に入っている種を発芽させれば小テスト合格よ。芽は小さな芽でもいいわ」

説明はさっき聞いたから知ってるんだけどな、と思いながらも、Fクラスの講師は反抗だとみなすと面倒くさくなるタイプだから、大人しく「はい」と返事をした。

この小テスト。
7歳から10歳くらいの子供ならだいたい合格できるようなものだけど、未だに合格したことがない。


でも……もしかしてだけど今回は出来るかもしれない、と思っている。


だって、たまたまだったかもしれないけど、奇跡的にラブを召喚できたし、今まで起こせなかった風も起こすことができたんだから。
もしかしたら、今まで遅れを取っていただけで、ようやく私の魔力も増えてきたのかもしれない。


そんな事を考えながら大きく深呼吸をしてはちに手をかざす。
そして芽の成長を願うように魔力を込める。

すると、すぐに土の中から可愛い緑の芽がピョコンと飛び出した。

「え!?」
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