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召喚
3
しおりを挟むその声につられて窓の外を見ると、この場所から見下ろせる特殊な透明の壁で囲まれた魔法訓練場に自然と視線が向いた。
そして一目散に目に飛び込ん来たのは、高さ3mはありそうな仁王立ちする大きな熊と、その前で腰を抜かしたように座り込んでいる女生徒だった。
「ふぅん。今はあんな実践的な魔法訓練までしてるのか?」
学園に来ても、ごく短時間だから知らない事も多いな。
教頭は目が悪いのか、異様に目を細くして訓練場を見た。
「……いえ、そんな事はしていないはずですが……。しかもあれは……まさかFクラス?あの厳重なセキュリティを通って入って来たんでしょうか。それともSクラスの生徒が召喚したとか……」
訓練場から走り逃げる子供や、壁にへばりついたような体勢で震えて動けなくなっている子供もいるが、熊の周りには叫び声を上げたと思われる女生徒しかいなかった。
絶対いるはずの講師の姿はどこにも居なく、そのことに違和感を感じた。
訓練にしては緊迫感がありすぎるし講師が居ないのも変だ。
よく分からないが、面倒くさそうな事態になってそうだな、と考えてから「どうでもいい」と言って訓練場に背を向ける。
すると「待ってください」と俺を引き止める教頭。
「助けてくださいませんか。原因は分かりかねますが、多分このままだと怪我人が出ると思われます」
教頭は隣で慌てふためきながら弱々しく頭を下げてくる。
「時間見ろ。契約時間外だ」
「そんな……」
「助けたいのなら、自分でやるか他の講師に頼め」
そう言って再び背を向けると、変な魔力を感じた。
この魔力……っ!
体が勝手に魔力を辿り、熊の前にいる女にぶつかった。
その時、熊は仁王立ちからドンと床に手を突いて四つん這いになり、女生徒に向かって鋭い目を光らせた。
「ひっ。こ、こっちに来ないでっ!!」
女生徒はそう叫んで両手をかざしている。
すると、魔法で攻撃でもしたのか、熊が一瞬驚き怯みを見せて……
酷く逆上した。
熊は顎を上げ、辺り一帯がビリっと痺れる程の大きな声を上げる。
「カミヅキ様!私はもうこんな年なので魔法はほとんど使えないんです。だからどうかお力を……」
煩いな。
どうせ物理的な怪我なんて、死ななきゃだいたいは治せるだろ。
まぁ、あんな大きな奴に引っかかれたり噛まれたりしたら驚くほど痛てぇだろうけど……と考えている最中、前に見たあいつの涙が脳裏に浮かび上がった。
その瞬間、自分の体に異変を感じた。
それは、自分の意志ではないはずなのに、女生徒の元に瞬間移動を発動させようとしているということだった。
その事に不思議に思っていると、熊が空に向かって大きく手を振りあげる。
そして今度は女生徒目掛けて勢いよく振り下ろした。
「きゃああああ――――!!」
女生徒は咄嗟に頭を抱えて小さくなる。
「俺には関係ねぇし、ぜってぇ助けねぇから」
と自分に言い聞かすように呟いて一度目を閉じた。
そして瞼を開けると、俺の瞳に映る景色はガラリと変わっていて、俺よりもはるかに大きく凶暴な熊が目の前に映った。その瞬間イラっとした。
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